月: 2017年8月

GJ 1132b


(GJ1132bの想像図   画:清水海羽 守山高校ハビタブル研究会)

 

これまでにたくさんの系外惑星が発見され、その幾つかには大気が存在することがわかってきました。しかし、それらはいずれも木星のような巨大ガス惑星でした。ところが、今回大気の存在が確認されたGJ1132bは、地球とほとんど同じ大きさの「地球型惑星」です。地球から39光年先にあるM型星GJ1132を周回するこの惑星は、地球のおよそ1.4倍のサイズと1.6倍の質量を持っています。なお、この惑星は2015年にすでに発見されており、金星と似た惑星ではないかと推測されていました。

では、一体どうしてこの惑星が大気を持っているとわかったのでしょうか。系外惑星の大気の観測は、「トランジット観測」という手法を用いて行われます。これは、恒星の前を惑星が横切った際に、我々観測者に届く恒星からの光が遮られて弱くなる現象を利用した手法です。横切る惑星のサイズが大きいほど、この減光率は大きくなります。太陽系で言えば、月や金星が太陽からの光を隠す現象、すなわち「日食」にあたります。(つい先日、アメリカ大陸での日食が話題になりましたね)ところが、この減光率が観測する光の波長によって異なる場合があります。これは、光の波長によって惑星が遮る領域のサイズが異なることを意味します。つまり、ある波長の光は透過し、別の波長の光は通さないような物質が、惑星の表面に纏わり付いていると考えられるのです。そのような物質は、ガス、つまり大気であると考えるのが妥当でしょう。

今回、様々な波長の光でGJ1132bによるGJ1132の減光率を観測した結果、全波長で平均した「惑星大気の半径」は1.43±0.16地球半径であるのに対して、固体部分(つまり惑星の「地表」)の半径は約1.375地球半径であるとわかりました。さらに、特定の波長の「惑星大気の半径」が大きいことから、この厚い大気は水蒸気とメタンを含んでいることがわかりました。

このような、大気(しかも水蒸気とメタンを含む)と地表を持った地球型惑星には、生命が存在しているかもしれません。しかし、残念ながらGJ1132bの表面温度は370℃もあると推測され、生命が存在するのは難しそうです。一方で、M型星は地球の周りにたくさん存在しており、似たような惑星が今後見つかることが期待されます。
(文責:芝池諭人)

GJ 1132 bについての詳しい情報
http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/GJ_1132_bJP.html

参考文献
The Astronomical Journal (2017): “Detection of the Atmosphere of the 1.6 M_⊕ Exoplanet GJ1132b” John Southworth1, Luigi Mancini, Nikku Madhusudhan, Paul Mollière, Simona Ciceri, and Thomas Henning (http://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/aa6477/meta)
BBS NEWS, Science & Environment: Atmosphere found around Earth-sized planet GJ 1132b (http://www.bbc.com/news/science-environment-39521344)
sorae.jp,天文: 地球サイズの系外惑星「GJ1132b」に大気 水の存在の可能性も(http://sorae.jp/10/2017_04_07_taiki.html)


(ExoKyoto Stellar Mapを用いて表示したGJ 1132 bの位置)


(ExoKyoto Stellar Mapを用いて表示したGJ 1132 bの位置 Zoom Level 3)

KELT-9 b

(Imaginary Picture of KELT-9 b and its host star KELT-9 (HD195689), credit: Miu Shimizu, Habitable Research Unit – SGH Moriyama High School)
(KELT-9 b と主星KELT-9 (HD195689) の想像図 守山高校ハビタブル研究会 清水海羽 画)

惑星と聞けばまずは、我々の住む地球のような環境、もしくは火星や木星など、太陽系の仲間たちを想像します。実際に、発見が話題になる系外惑星は、地球に似ているものや、水の存在が期待されるものが多いように感じます。それはもちろん、地球に似た環境ならば生命の存在が期待されるからですが、系外惑星の中には、我々の知る惑星環境とはかけ離れているからこそ面白いものもたくさんあります。

KELT-9 bは、恒星に匹敵するほど熱い惑星として話題になりました。はくちょう座の方向、650光年先のA型星 KELT-9 の周りを周期1.48日で公転しており、質量と半径はそれぞれ木星の2.9倍と1.9倍ほどの、巨大ガス惑星です。約1万度という主星の表面温度の高さ(太陽でも約6千度)と、そこから0.03 au しか離れていない公転軌道の近さ(水星軌道の10分の1以下)ゆえ、この惑星の表面はかなりの高温になっていることが予想されます。

実際に、惑星が主星の後ろ側に隠れる場面を観測した結果、この惑星の昼側は4600 Kという、惑星のイメージを覆すほどの高温環境であることがわかりました。我々の太陽系を含む天の川銀河にある恒星の7割以上を占めると言われるM型星でも、その表面温度は4000度に達しません。つまり、KELT-9 b は惑星でありながら、多くの恒星よりも熱い大気を持っていることになります。この温度になると、水や酸素、二酸化炭素など、惑星の大気には馴染み深い “分子” が存在できないため、この惑星の大気は原子が主成分になっていると考えられます。これまで常識だった「分子を主成分とする惑星大気」とはまったく違う、しかし内側に熱源を持つ恒星の大気とも異なる、全く新しい未知の大気です。

さらに、主星の極端紫外線(波長が91.2nm未満の非常に高エネルギーの電磁波)の放射が非常に強く、ただでさえ高温のために膨らんだ惑星大気を吹き飛ばし続けていると予想されます。その量は低く見積もっても1秒間に1万トン以上という勢いで、吹き飛ばされた大気は彗星の尾のようにたなびいて見えるかもしれません。

また、もうひとつこの惑星が面白い点は、主星の自転軸と惑星の公転軸が90度近く傾いた、極軌道にあることです。主星と同時に惑星が生まれる場合、通常は主星の自転軸と惑星の公転軸が平行になるはずですが、他の惑星との重力相互作用などいくつかの原因によって、このような変わった軌道に落ち着いた可能性があります。

今後、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) や、2018年に打ち上げが予定されるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) などの観測によって、大気流出の様子や大気の成分の調査が期待されます。これまであまり調べられてこなかった、高温の星を回る惑星の一生についての、新たな知見につながるかもしれません。

KELT-9 b を発見したKELTサーベイは、これまでのトランジット法による惑星探査計画では明るすぎて調べられなかった恒星をターゲットとし、小型の望遠鏡を用いて全天を探査するプロジェクトです。今回の発見には、日本の成田憲保氏と福井暁彦氏も参加しています。
(文責 石川 裕之 (総合研究大学院大学・国立天文台))
(修正担当 佐々木貴教)

KELT-9 bははくちょう座に位置し、Kepler観測領域の近くにある。主星KELT-9 (HD 195689) は視等級 7.6 スペクトル A0型の星で、太陽系から615 光年離れている。肉眼や双眼鏡でも観測できる星であるので、夏の大三角形とともに機会があれば探してみてはいかがだろうか?


(ExoKyoto Stellar Windowを用いて天球上に表示したKELT-9b & KELT-9 (HD195689), (Kepler領域の星も参考までに表示) )
KELT-9 b の詳しい情報はこちら。

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/KELT-9_bJP.html