月: 2023年3月

WASP-121 b

WASP-121 b は、太陽系から 853.8 光年( パーセク)離れた恒星WASP-121 を周回する系外惑星で 2015 年に公開されました.
恒星 WASP-121 は視等級 10.4, 絶対等級 3.3 です.
この恒星は太陽の 1.4 倍の質量で、 半径は太陽の1.5 倍であり 表面温度は 6460 で、スペクトル型は F6Vです。
この恒星の惑星系で WASP-121 b は、恒星 WASP-121 のまわりを 公転周期1.3 日で、 軌道長半径 0.03 天文単位 ( 3805769.8 km)で公転しています。

公転と自転周期がほぼ同時のホット・ジュピター。昼半球と夜半球の気温差によりルビーやサファイアの雨?

2015年に太陽系外惑星探査プロジェクトスーパーWASPによる観測で発見された。
地球から「とも座」の方向におよそ880光年離れた位置にある灼熱巨大ガス惑星で、F型主系列星WASP-121の周囲を公転している。質量は木星の約1.2倍、半径は木星の約1.8倍で、恒星(WASP-121)から380万kmとかなり近い距離を1日余り(約30時間)で公転する。表面温度は約2000 K、上層大気は約2500Kにもなる「ホット・ジュピター」の一つ。
自転周期が公転周期とほぼ同じで、半面は常に恒星を向く昼半球(もう半面は常に外を向く夜半球)となるのが特徴的。
夜半球ですら気温が1500℃を超えるので、地球の様な水の雲ではなく、鉄やマグネシウム、クロム、バナジウムといった金属で構成される雲が存在している。
2017年、ハッブル宇宙望遠鏡による観測でWASP-121 bの大気組成が水蒸気、酸化バナジウム(II)、酸化チタン(II)が含まれている事が明らかになり、成層圏が存在することはほぼ間違いないとされる。

2019年、恒星に近いことから潮汐力によってWASP-121 bは引き裂かれる寸前といえる状態で、フットボールのような形状になっていると考えられる。David Sing氏らはハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」の観測データを使い、雲のなかに凝縮している鉄やマグネシウムといった金属までもが、軽い元素(水素やヘリウム)とともに惑星から離れた宇宙空間へ流出していることを確認した。

2022年、ハッブル宇宙望遠鏡でWASP-121 bの昼半球と夜半球の両方のスペクトル解析により、地球とは異なる水循環が確認された。常に恒星を向く昼半球では上層大気の温度が最大で3000℃を超え、水は蒸発してさらに水素と酸素に分解される。一方、夜半球の上層気温は1500℃にまで下がるため、昼半球と夜半球で1500℃も気温差が生まれることで強風が吹き抜け、水素と酸素を夜半球まで運び、夜半球側で水素と酸素が再結合して水蒸気となり、そのまま再び昼半球に吹き込むという循環をもつ。天文物理学者のTansu Daylan氏によると、この強風は20時間程度で惑星全体の雲を移動させることができるとされる。
WASP-121 bにて様々な金属元素(バナジウム、鉄、クロム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ニッケルなど)は確認されたが、アルミニウムやチタンが検出されなかった。研究チームはアルミニウムやチタンが凝縮し地表に降り注いでしまったためだと推測し、アルミニウムは大気中の酸素と凝結すると「コランダム」という鉱物になり、コランダムにクロムや鉄、チタン、バナジウムなどの不純物が含まれるとルビーやサファイアになるため、WASP-121 bの夜半球に液体のルビーやサファイアが雨となって降り注いでいる可能性があると推測した。

Delrez, L. et al. (2016). “WASP-121 b: a hot Jupiter close to tidal disruption transiting an active F star”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (4): 4025-4043. arXiv:1506.02471. Bibcode: 2016MNRAS.458.4025D. doi:10.1093/mnras/stw522. ISSN 0035-8711.
Evans, Thomas M. et al. (2017). “An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere”. Nature 548 (7665): 58-61. arXiv:1708.01076v1. Bibcode: 2017Natur.548…58E. doi:10.1038/nature23266. ISSN 0028-0836.
David K. Sing. et al. (2019). “The Hubble Space Telescope PanCET Program: Exospheric Mg ii and Fe ii in the Near-ultraviolet Transmission Spectrum of WASP-121b Using Jitter Decorrelation”.The Astronomical JournalVolume 158Number 2https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ab2986/pdf
Mikal-Evans, T., Sing, D.K., Barstow, J.K. et al. Diurnal variations in the stratosphere of the ultrahot giant exoplanet WASP-121b. Nat Astron 6, 471–479 (2022).https://doi.org/10.1038/s41550-021-01592-w An exotic water cycle and metal clouds on the hot Jupiter WASP-121 b | Max Planck Institute for Astronomy (mpia.de)

(文責:小川)

Imaginary picture of WASP-121 b

Imaginary Picture of WASP-121 b: Illustrated by Yuna Watanabe

TRAPPIST-1 系

(Imaginary TRAPPIST-1 System by Exoplanetkyoto Image Credit: Yosuke A. Yamashiki, Fuka Takagi, Ryusuke Kuroki, Natsuki Hosono)

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(Imaginary Picture of TRAPPIST-1 d, Credit Shione Fujita & SGH Moriyama High School)

TRAPPIST-1 は、みずがめ座に位置し、太陽系からおよそ39光年離れたところに存在する、M8型の赤色矮星で、表面温度2550K、半径はProxima Centauriより小さい0.117太陽半径、質量は0.08太陽質量です。木星の半径は0.1太陽半径、質量は0.001太陽質量なので、見かけ上木星よりわずかに大きく、質量は木星の80倍程度なので、いわゆる自分で光るギリギリの大きさの恒星(矮星)だと言えます。Ultra Cool Dwarf Star(超低温矮星)とも言われています。

(TRAPPIST-1の大きさの比較図 左はProxima Centauri星との比較、右は太陽との比較)

TRAPPISTとは、TRAnsiting Planets and PlanetesImals Small Telescopesの略で、ベルギー・リエージュ大学(http://www.ulg.ac.be/cms/c_5000/accueil)の天文地学海洋専攻(AGO)のプロジェクトでチリのESO La Silla 天文台 とモロッコのOukaïmden 天文台(2016.10.6開始)に設置された望遠鏡ネットワークであり、このTRAPPIST-1は2016年にLa Silla天文台で発見され、地球よりわずかに大きな惑星が3つ、このクラスの赤色矮星の周りに初めて発見されました1) 。さて、特にこのTRAPPIST-1系のハビタブルゾーンにあると言われた3番目の惑星TRAPPIST-1dのトランジット観測による周期と軌道が確定せず、ハビタブルゾーンの惑星発見のニュースはキャンセルされるかと心配されていました。ところがそれがさらなる大発見につながったのです。

2017年2月22日(日本時間2月23日午前3時)、NASAはTRAPPIST系に合計7つの惑星が発見されたと発表しました。また、そのうち3-4つはハビタブルゾーンにあると考えられています。

(Imaginary Picture of TRAPPIST-I b, credit, Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

<潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 dの想像図 credit: Miu Shimizu, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

<潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 eの想像図 credit: Rina Maeda, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

<TRAPPIST-1 eの想像図 credit: Yui Nagato, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

(潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 fの想像図 (アイボールアース), credit: Haruka Inagaki, Habitable Research Group, SGH Moriyama High School)

(Imaginary Picture of TRAPPIST-I h, covered with imaginary ice, credit, Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

(TRAPPIST-1の7つの惑星群の公転の状況)

それぞれの公転軌道半径は(TRAPPIST-1 b, c, d, e, f, g, hの順で) 0.011, 0.015, 0.021, 0.028, 0.037, 0.045, 0.063 天文単位に存在し、半径はそれぞれ地球の1.08, 1.05, 0.77, 0.92, 1.04, 1.12, 0.76倍と、ほぼ地球の大きさに等しいと見積もられています。この星のハビタブル・ゾーンは太陽系相当天文単位(SEAU)によると、
金星相当軌道 0.016 天文単位
地球相当軌道 0.023天文単位
火星相当軌道0.035天文単位
trappist-1_d_orbh

(SEAUによるハビタブルゾーンの位置)

Kopparapu et al.2013によると
内側境界Recent Venus 0.019天文単位
地球サイズ惑星の暴走温室限界 0.024天文単位
外側境界最大温室限界0.048天文単位
trappist-1_d_orbk

(Kopparapu et al. によるハビタブルゾーンの位置)

となっており、SEAUによると、bは内側境界の内側で温度は高く、c, d, eはハビタブル・ゾーンに存在すると考えられています。

(SEAUによるハビタブルゾーンとTRAPPIST-1b,c,d,e,f,g,hの軌道位置,赤線が金星相当軌道,緑が地球相当軌道,水色が火星相当軌道,青がスノーライン)

ただし、TRAPPIST-1 bにおいても、潮汐ロックされているとすれば、惑星の昼半球と夜半球の境界領域にハビタブル・ゾーンが存在する可能性が指摘されており、また、他のf,gについてもスノーラインの内側にあり、潮汐力や内部の熱源などあれば、ハビタブルゾーンと考えられる可能性もあります。

また、Kopparapu et al.2013によると、ハビタブルゾーンにある惑星は、d, e, f ,g となり、先ほどのcは内側境界の中に位置してしまいます。TRAPPIST-I dはしかしながらRecent Venusの内側に位置はしますが、暴走温室限界線の内側にあるので、そのままでは海洋は存在できませんが、潮汐ロックされている場合境界領域(terminator)に狭い海が存在しうるとも考えられます。TRAPPIST-I gはしかしながら、外側境界最大温室限界付近のため、十分な温室効果ガスがある場合のみ居住可能だと考えられます。

(Kopparapu et al. 2013 によるハビタブルゾーンとTRAPPIST-1b,c,d,e,f,g,hの軌道位置,赤線がRecent Venus境界線、緑色が薄い色からそれぞれ火星・地球・スーパーアースサイズの暴走温室限界線,その外側の薄青色が最大温室効果限界線(Maximum G), その外側の青が初期火星線(Early Mars)。この判定によるとTRAPPIST-1 e, f, gがハビタブルゾーンとなる)

NASAの公式ページには、カラフルなイメージ図やVR, 3Dイメージなども公開されています。

https://exoplanets.nasa.gov/trappist1/

カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(JPL)-Spitzer宇宙赤外望遠鏡のページによると、TRAPPIST-1の惑星のほとんどすべてが潮汐ロックされており(すなわち、常に中心星TRAPPIST-1に同じ面を向けており)、乾燥して暑い(熱い)昼半球と、寒くて氷に覆われているであろう夜半球にわかれているだろうとされています。ハビタブルゾーンに存在する惑星はTRAPPIST-1 e, f, gであるが(b-hの)いずれの惑星も液体の水が潜在的に存在する可能性があるとされている。また境界領域(terminator)に海が存在するのはTRAPPIST-1dで、海が広く存在する可能性のあるTRAPPIST-1e,fでも昼半球に集中しており、夜半球は氷で覆われているであろう、と解説がされています。このページではTRAPPIST-1 bは木星の衛星イオ(Io)のようであり、また最も寒いTRAPPIST-1 hはエウロパ(Europa)のように描かれています。

http://www.spitzer.caltech.edu/images/6266-ssc2017-01a-TRAPPIST-1-Planet-Lineup

2018年2月のより詳細な調査結果によって、いくつかの惑星は地球よりも水を大量に保有している可能性も示唆されています。より中心星に近いb,cでは水蒸気、d,e,fでは液体と氷、そしてgは大部分が氷としてでしょう。この詳細調査によって、それぞれの惑星の密度がより正確に求められました。現在ではTRAPPISTシステムは最もよく観測された惑星システムの一つといえます。

七つの地球サイズの惑星にそれぞれ液体の水が存在する可能性のある惑星系というのは、非常に興味深い惑星系です。また赤色矮星の寿命は太陽とくらべて桁違いに長いので、もしかすると非常に長い間進化した安定的な生命体が文明を築き、それぞれの惑星間で文明交流を繰り返しながら今後も長きにわたって存在してゆく、「理想郷」なのかもしれません*。
(文責:山敷庸亮)

TRAPPIST-1についての詳しいデータは以下のデータベースに

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/TRAPPIST-1.html

* 実際に理想郷かどうかについて、以下のような懸念と論点もあります(野津翔太・山敷庸亮)

1) M型星は黒点活動・フレア等が太陽型星より活発であり、ハビタブルゾーンでの紫外線・X線強度などが強い。それらがハビタビリティにどう影響するかは不明。惑星大気が剥ぎ取られている可能性も否定できないが、逆に厚い大気に覆われていれば、これらが高エネルギー電磁波のシールドになる可能性もある。ただし、潮汐ロックされているとすれば、地磁気が存在しない可能性もあるため、その点では荷電粒子の直撃を受ける可能性も高い。
2) M型星の中でも低温側の星は全球対流状態にあると同時に、自転・活動性の振る舞いがM型の高温側の星に比べて良く分かっていない部分もあるため、実際どの程度このTRAPPIST-1が上記の活動があるのかはわからない。

なお、イラストにおいてexoplanetkyoto のページでは、潮汐ロックは起こりうるであろうが、それぞれ自転している惑星を想定しての想像図となっています

以下、Stellar Windowを利用して表示したTRAPPIST-1の星図上での位置。

trappist-1_d_stz0
(Position in Stellar Map of star TRAPPIST-1 and its Exoplanet TRAPPIST-1 b,c,d,e,f,g,h)
trappist-1_d_stz3
(Zoomed pos.in Stellar Map of star TRAPPIST-1 and its Exoplanet TRAPPIST-1 b,c,d,e,f,g,h)

1)Michaël Gillon, Emmanuël Jehin, Susan M. Lederer, Laetitia Delrez, Julien de Wit, Artem Burdanov, Valérie Van Grootel, Adam J. Burgasser, Amaury H. M. J. Triaud, Cyrielle Opitom, Brice-Olivier Demory, Devendra K. Sahu, Daniella Bardalez Gagliuffi, Pierre Magain & Didier Queloz. Temperate Earth-sized planets transiting a nearby ultracool dwarf star, Nature 533, 221–224 (12 May 2016) doi:10.1038/nature17448, Received 11 January 2016 Accepted 18 February 2016 Published online 02 May 2016
http://www.nature.com/nature/journal/v533/n7602/full/nature17448.html

https://www.theguardian.com/science/2016/may/02/could-these-newly-discovered-planets-orbiting-an-ultracool-dwarf-host-life

2)Michaël Gillon, Amaury H. M. J. Triaud, brice-Olivier Demory, Emmanuël Jehin1, Eric Agol, Katherine M. Deck, Susan M. Lederer, Julien de Wit, Artem burdanov, James G. Ingalls, Emeline bolmont, Jeremy Leconte, Sean N. Raymond, franck Selsis, Martin Turbet, Khalid barkaoui, Adam burgasser, Matthew R. burleigh, Sean J. Carey, Aleksander Chaushev, Chris M. Copperwheat, Laetitia Delrez, Catarina S. fernandes, Daniel L. Holdsworth, Enrico J. Kotze, Valérie Van Grootel, yaseen Almleaky, Zouhair benkhaldoun, Pierre Magain & Didier Queloz. Seven temperate terrestrial planets around the nearby ultracool dwarf star TRAPPIST-1. Nature 542, 456–460 (23 February 2017) doi:10.1038/nature21360.

Received Accepted Published online 

http://www.nature.com/nature/journal/v542/n7642/full/nature21360.html

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)

〈ミッション概要〉

TESSは太陽系近傍にある明るい恒星の周りを周回する惑星を、トランシット法によって探索することを目的とした2年に及ぶMITが率いるNASAのミッションである。TESSは2018年4月にSpaceX社のFalcon9に乗せて打ち上げられた。それから約60日後に予定していた周期13.7日の楕円軌道に到達し、観測を開始した。約2年のミッション期間で、惑星によってトランジットという現象が起こる主系列矮星を少なくとも200,000個観測するために、 TESSには広範囲の視野を持つ4つのCCDカメラが搭載されている。TESSは先に行われたNASAのKeplerミッションに比べて350倍の広さとなる全天の85%以上を探索し、ターゲットとなる恒星の光度は2分ごとに記録される。また4つのカメラ視野全体(天球上の24°×96°に及ぶ範囲)のフルフレームイメージも30分ごとに記録される。TESSのターゲットとなる恒星はKeplerミッションのターゲットに比べて30~100倍明るいため、フォローアップ観測によって系外惑星が特徴づけやすくなっている。TESSは全天観測によって海王星よりも小さいサイズの惑星を1,000個以上発見することが期待されており、その中には数十個の地球サイズ惑星が含まれている。また観測データは、多くの研究者がすぐに新たな惑星の研究に着手できるよう4か月ごとにデータが公開されている。

〈ミッションの背景〉

惑星が観測者と恒星の間を横切ると、その惑星によって恒星の光の一部が遮られる現象が起こる。このような現象はトランジットと呼ばれ、系外惑星の検出方法の一つとして利用されている。トランジットする惑星に対しては惑星の質量、半径、軌道に関する情報、さらには大気組成を推定することが可能なのでトランジット惑星は非常に重要である。

その中でも特に興味深いのは、地球サイズから海王星サイズの大きさをもつ系外惑星である。しかしながら太陽系にはそのようなサイズの惑星が存在しないため、それらの惑星については多くのことが分かっていない。TESSの先行ミッションであるKelperミッションでは、そのような地球~海王星サイズの惑星が数多く存在し、多様な組成や興味深い周回軌道を持っていることを明らかになり、系外惑星の研究に革命をもたらした。しかしKeplerで観測された恒星の多くは詳細なフォローアップ観測をするためには明るさが十分ではなかった。

そこでTESSミッションでは、地球から約200光年以内の太陽系近傍にある明るい恒星を探索してトランジット惑星を発見することが計画された。TESSが観測する恒星は、Keplerが観測したものに比べて概ね30~100倍程度明るいため、そのような恒星の周囲で発見された惑星は Keplerで発見されたものに比べてはるかにフォローアップ観測が容易である。

〈ミッションの目標〉

TESSの主要なミッションは2018年7月25日から2020年7月4日までの2年間行われた。この2年間で、TESSは地上からのフォローアップ観測によって特徴づけることができる太陽系近傍の惑星を発見することを主要な目標として探索を行なった。特にTESSミッションにおける科学的な要請は次のようなものである。

  1. 軌道周期が10日より短く、半径が地球の5倍未満の大きさの惑星および少なくとも地球の2.5倍の半径を持つ惑星を発見するために200,000個以上の恒星を観測すること。
  2. 黄道の極の周辺領域にある約10,000個の恒星の周りに、軌道周期が120日までの惑星を見つけること。
  3. 惑星半径が地球の4倍未満の少なくとも50個の惑星の質量を決定すること。

このような科学的要請により、TESSは地球サイズの惑星を含む約20,000個の系外惑星を発見することが期待され、特に地球サイズに近い大きさの惑星については、50個以上の地球サイズ惑星と地球の1~2倍の大きさを持つ惑星を500個発見する計画である。TESSによる観測において、主に地球半径の2倍よりも小さい惑星は2分毎に得られる恒星の光度データから発見され、それよりも大きな惑星の多くは30分毎に得られるフルフレームイメージから発見されると想定された。また海王星サイズよりも大きい惑星に関しては17,000個以上発見することが期待された。

特にTESSの最も重要な目標は、惑星の質量や大気組成の推定に十分な明るさをもつ恒星を周回する海王星よりも小さなトランジット惑星を数千個発見することであった。そしてこの目標は2年間におよぶ全天観測によって達成された。2年間のミッションの間には、数十万個もの恒星に対して異なる2種類のタイムスケールで測光が行われた。得られたTESSの観測データの主な価値は、データの数や網羅性ような統計的なものではなく、現在稼働している観測機器やその後予定されている機器によるフォローアップ観測の容易さにあった。TESSのトランジット観測によって主星に対する惑星の大きさおよび軌道に関するパラメータを決定することができるが、さらに地上からその系外惑星をフォローアップ観測することによって惑星の質量も推定することができる。また惑星の大きさと質量を組み合わせることで惑星の密度が推定でき、その惑星の組成(巨大ガス惑星?水惑星?岩石惑星?など)の予想が可能になる。それに加えてトランジット観測は惑星同士の相互作用のような惑星系のダイナミクスの研究にも活用できる。このようにして、TESSによる観測で系外惑星について様々な情報が得られる。

〈観測する恒星の数〉

先行のKeplerミッションにおいて、公転周期が10日より短いスーパーアース(地球半径の1.25~2倍の半径をもつ系外惑星)のトランジット検出率は約0.2%であった。これはトランジットの発生率(~5%)とTESS・恒星・惑星の位置関係による幾何学的なトランジットの確率(~5%)の積として算出された値である。このことから同じ検出率を仮定すると、TESSでは一つのスーパーアースの検出に対して、少なくとも500個の恒星を観測する必要があることがわかる。さらにスーパーアースを数百個発見するという要請から、100,000個以上の恒星を観測することが必要となる。

〈観測する恒星のタイプ〉

理想的には全てのスペクトル型を観測することが望ましいが、ミッションのコストやリスクを考慮すると、観測する恒星のスペクトル型を限定することが合理的である。そこでTESSミッションではスペクトル型がF5~M5までの主系列矮星の集中的な観測が計画された。まず進化末期の恒星や早期型矮星は大きく、小さな惑星の検出が難しいことが知られている。特にF5よりも高温のスペクトル型をもつ矮星は急速に回転し、スペクトル線が広がるため正確な視線速度観測も妨げられる。そのためフォローアップ観測での正確な測定に適さない。このことからF5よりも高温側のスペクトル型を持つ恒星はTESSのターゲット候補としては最適でない。

さらにスペクトル型の低温側では、M型矮星が特に魅力的なターゲットである。M型矮星は数が豊富で太陽系の近くにある恒星の約4分の3がM0~M5型の矮星である。しかしながらKeplerミッションのターゲットリストにおいてM型矮星はごく少数だったため、それらを周回するトランジット惑星は他に比べてあまり調査されていない。さらに小さい惑星のトランジット信号については、見かけの等級が同じでサイズがより大きい惑星と比べると、M型矮星の方が検出しやすい。このことは系外惑星の発見とJWSTやその他の天体望遠鏡によるフォローアップ観測の両方を容易にすることができる。そのためM型矮星はTESSのターゲット候補として望ましいと考えられた。

またM5よりも低温のスペクトル型をもつ恒星は希少であり、明るさも小さい。またそのような恒星は赤外線付近の波長で有利に観測できるが、これはミッションのコスト・複雑さ・リスクを大幅に増加させてしまう。さらに最も低温側のスペクトル型をもつ恒星をトランジットする惑星はMEarthサーベイのような地上の観測機器でも検出可能である。このことからM5よりも低温側のスペクトル型をもつ恒星は比較的にターゲット候補としては適さない。

以上の理由から、TESSミッションではF5~M5型の範囲のスペクトル型をもつ恒星に集中して観測が行われた。

スペースクラフト(宇宙機)

〈概要〉

TESSはアメリカの企業 Northrop Grumman Innovation Systems の LEOStar-2/750という衛星バスを使用している。この衛星バスは三軸方向のヒドラジン一液式推進系と2つのスタートラッカーをもつゼロモーメンタム方式の姿勢制御システムによって姿勢制御されている。機体に必要な指向精度は4つのリアクションホイールと科学用カメラの情報から算出される四元数を用いて達成されている。また衛星バスは2枚の展開型太陽電池パドルを装備している。この太陽電池パドルは合計415Wの電力を生み出すことができ、宇宙機全体で必要とされる290Wの電力を供給する。さらに衛星バスには機体に固定された直径0. 7mのハイゲインアンテナに接続されたKaバンド送信機が装備されている。送信機は2Wの電力で動作し、100Mb/sのデータ転送レートで地上にデータを送信することが可能である。このデータ転送レートの値は、宇宙機が近地点に位置する4時間の間に科学データを地上に送信するのに十分な値である。また宇宙機には太陽輻射圧によって角運動量が蓄積するため、それを排除するためにヒドラジンスラスターという装置も備えられている。

〈軌道〉

TESSの軌道は、近地点と遠地点がそれぞれ地球半径の17倍および59倍の位置にある楕円形をしている。この軌道は周期が13.7日であり、これまでのミッションでは使用されたことのない P/2として知られる月と2:1の軌道共鳴にある安定な軌道である。観測に適するように設定されたこの楕円軌道は様々な利点がある。まず黄道面から傾いているため地球や月によって長時間視界が遮られることがない。またこの軌道における月の重力による外乱を平均すると、宇宙機の遠地点が90°付近に留まるようになっているため操作も容易である。さらに軌道は常に地球の放射帯(ヴァン・アレン帯)の外側にあり、ミッション全体での電離放射量が10Gy以下の比較的低放射線量環境である。この環境は温度変化も非常に小さく(軌道のうち90%で温度変化<0.1℃/hr、全体でも<2℃/hrである)、CCD検出器をほぼ-75℃という適温で動作させることが可能である。軌道周期と軌道長半径は比較的一定であり、離心率と傾きの交換も周期8~12年と長期的である(これはKozai-Lidovメカニズムによる)。太陽からの外乱による周期6か月の短期的周期振動も存在するが、軌道は数十年やそれ以上のタイムスケールで安定的であり、軌道を維持するための推進力も必要としない。

さらにこの軌道への到達までには、効率的に月の重力を利用して推進力を増加させる機構を使うことができる。またこの機構を使用するために宇宙機が辿る経路は打ち上げ日時と機体に依存することになる。計画では、TESSはケープカナベラル宇宙軍施設 (Cape Canaveral/フロリダ州)から上空600kmの赤道に対して28. 5°傾いた中継軌道へと打ち上げられる。この軌道で固体推進剤ロケットモータを切り離し、さらにTESSに搭載されたスラスターを使用して回転力を小さくした後に太陽光電池パドルを展開する。その後、宇宙機のヒドラジン推進系による2回の燃料噴射により遠地点を第一段階で250,000km、第二段階で400,000kmまで上昇させる。2回の噴射はそれぞれ第一段階と第二段階の軌道の近地点で行われる。そして3回目の近地点における軌道調整の後、月フライバイによって黄道に対する傾きを40°まで上昇させる。その後、最終調整によって目標となる遠地点と公転周期13.7日を達成する計画である。最後の軌道には打ち上げの約60日後に到達し、その後すぐに観測が開始される。

〈周期感度〉

理想的には数時間程度の周期から1年やそれ以上の比較的長い周期までの広範囲で惑星を検出したい。しかし最大周期をいくつに設定するかによってミッションの持続期間が決定し、最終的にコストに影響を及ぼすため、最適な値を設定する必要がある。さらにトランジット法による観測は本質的に短い周期に大きく偏っている。実際、トランジットによる検出効率と惑星出現の周期依存性を考慮したKeplerの検出周期の分布は最大10日である。このことから10日程度の短い最大周期でも多くの系外惑星を発見することが可能である。

10日ほどの長さの最大周期を設定すれば、太陽のような恒星を周回するハビタブル惑星を除外することにはなってしまう。しかし全天を分割した観測範囲一つについて少なくとも40日以上の最大周期で観測すれば、M型矮星のハビタブルゾーンに位置する惑星を検出することは可能である。さらに分割した観測範囲のうちより広範囲に探索するセクターがあれば、後のJWSTの広範囲に連続した視野と一致させるのに都合が良い。またJWSTのそのような視野の範囲は黄道の極に集中している。以上のことから、最大周期は概ね10日程度とし、黄道の極付近においては可能な限り広く最大周期40日の範囲を取ることになった。

〈カメラとスキャン計画〉

TESSは同じカメラを4つ搭載しており、2年間の主要ミッション期間にそれらを連携させて全天観測を行う。1つのカメラは 24°×24° の広視野をもつ f/1.4 のレンズを装備している。レンズの口径は直径10cmであり、これは惑星に対する検出能をシミュレーションして決定された効果的な値である。4つのカメラの視野は1×4の配列として動作し、24°×96°の連結した視野を提供する。星の検出には高いケイデンスが必要なため、ターゲット候補の惑星や恒星への露出は2分毎に行われ、30分毎に視野全体のフルフレームイメージ (FFIs)も取得される。各カメラは次の特徴を持っている:

・24°×24°の視野

・100mmの効果的なひとみ径

・7つの光学要素をもつレンズ

・温度変化の影響を受けにくい(アサーマルな)設計

・600nm-1000nmのバントパス

・4つのCCDから成るMIT-Lincoln Labの16.8メガピクセル・低ノイズ・低電力のCCID-80検出器

探索する視野については、黄道の北半球及び南半球がそれぞれ黄道の緯度6°から黄道の極までの24°×96°を1セクターとして部分的に重なった13のセクターに分割されている。各セクターは太陽と反対側を向いた4つのカメラによって、軌道の2周期分(27.4日間) にわたり連続的に観測された。軌道を2周すると、次のセクターを観測するため視野を黄道の経度で約27°東に視野を移行する。このため半球を観測するのに1年、全天観測には2年を要する。このスキャンによって約30,000平方度が少なくとも27日間、黄道の極の近くでは約2800平方度が80日以上観測されることになる。さらに黄道の極の周囲では約900平方度が300日以上観測される。

参考文献

Ricker, G. R., et al.,”The Transiting Exoplanet Survey Satellite”/1406.0151.pdf (arxiv.org)

TESS – Transiting Exoplanet Survey Satellite (mit.edu)

TESS Science Support Center (nasa.gov)

The TESS Science Writer’s Guide (nasa.gov)