Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)
〈ミッション概要〉
TESSは太陽系近傍にある明るい恒星の周りを周回する惑星を、トランシット法によって探索することを目的とした2年に及ぶMITが率いるNASAのミッションである。TESSは2018年4月にSpaceX社のFalcon9に乗せて打ち上げられた。それから約60日後に予定していた周期13.7日の楕円軌道に到達し、観測を開始した。約2年のミッション期間で、惑星によってトランジットという現象が起こる主系列矮星を少なくとも200,000個観測するために、 TESSには広範囲の視野を持つ4つのCCDカメラが搭載されている。TESSは先に行われたNASAのKeplerミッションに比べて350倍の広さとなる全天の85%以上を探索し、ターゲットとなる恒星の光度は2分ごとに記録される。また4つのカメラ視野全体(天球上の24°×96°に及ぶ範囲)のフルフレームイメージも30分ごとに記録される。TESSのターゲットとなる恒星はKeplerミッションのターゲットに比べて30~100倍明るいため、フォローアップ観測によって系外惑星が特徴づけやすくなっている。TESSは全天観測によって海王星よりも小さいサイズの惑星を1,000個以上発見することが期待されており、その中には数十個の地球サイズ惑星が含まれている。また観測データは、多くの研究者がすぐに新たな惑星の研究に着手できるよう4か月ごとにデータが公開されている。
〈ミッションの背景〉
惑星が観測者と恒星の間を横切ると、その惑星によって恒星の光の一部が遮られる現象が起こる。このような現象はトランジットと呼ばれ、系外惑星の検出方法の一つとして利用されている。トランジットする惑星に対しては惑星の質量、半径、軌道に関する情報、さらには大気組成を推定することが可能なのでトランジット惑星は非常に重要である。
その中でも特に興味深いのは、地球サイズから海王星サイズの大きさをもつ系外惑星である。しかしながら太陽系にはそのようなサイズの惑星が存在しないため、それらの惑星については多くのことが分かっていない。TESSの先行ミッションであるKelperミッションでは、そのような地球~海王星サイズの惑星が数多く存在し、多様な組成や興味深い周回軌道を持っていることを明らかになり、系外惑星の研究に革命をもたらした。しかしKeplerで観測された恒星の多くは詳細なフォローアップ観測をするためには明るさが十分ではなかった。
そこでTESSミッションでは、地球から約200光年以内の太陽系近傍にある明るい恒星を探索してトランジット惑星を発見することが計画された。TESSが観測する恒星は、Keplerが観測したものに比べて概ね30~100倍程度明るいため、そのような恒星の周囲で発見された惑星は Keplerで発見されたものに比べてはるかにフォローアップ観測が容易である。
〈ミッションの目標〉
TESSの主要なミッションは2018年7月25日から2020年7月4日までの2年間行われた。この2年間で、TESSは地上からのフォローアップ観測によって特徴づけることができる太陽系近傍の惑星を発見することを主要な目標として探索を行なった。特にTESSミッションにおける科学的な要請は次のようなものである。
- 軌道周期が10日より短く、半径が地球の5倍未満の大きさの惑星および少なくとも地球の2.5倍の半径を持つ惑星を発見するために200,000個以上の恒星を観測すること。
- 黄道の極の周辺領域にある約10,000個の恒星の周りに、軌道周期が120日までの惑星を見つけること。
- 惑星半径が地球の4倍未満の少なくとも50個の惑星の質量を決定すること。
このような科学的要請により、TESSは地球サイズの惑星を含む約20,000個の系外惑星を発見することが期待され、特に地球サイズに近い大きさの惑星については、50個以上の地球サイズ惑星と地球の1~2倍の大きさを持つ惑星を500個発見する計画である。TESSによる観測において、主に地球半径の2倍よりも小さい惑星は2分毎に得られる恒星の光度データから発見され、それよりも大きな惑星の多くは30分毎に得られるフルフレームイメージから発見されると想定された。また海王星サイズよりも大きい惑星に関しては17,000個以上発見することが期待された。
特にTESSの最も重要な目標は、惑星の質量や大気組成の推定に十分な明るさをもつ恒星を周回する海王星よりも小さなトランジット惑星を数千個発見することであった。そしてこの目標は2年間におよぶ全天観測によって達成された。2年間のミッションの間には、数十万個もの恒星に対して異なる2種類のタイムスケールで測光が行われた。得られたTESSの観測データの主な価値は、データの数や網羅性ような統計的なものではなく、現在稼働している観測機器やその後予定されている機器によるフォローアップ観測の容易さにあった。TESSのトランジット観測によって主星に対する惑星の大きさおよび軌道に関するパラメータを決定することができるが、さらに地上からその系外惑星をフォローアップ観測することによって惑星の質量も推定することができる。また惑星の大きさと質量を組み合わせることで惑星の密度が推定でき、その惑星の組成(巨大ガス惑星?水惑星?岩石惑星?など)の予想が可能になる。それに加えてトランジット観測は惑星同士の相互作用のような惑星系のダイナミクスの研究にも活用できる。このようにして、TESSによる観測で系外惑星について様々な情報が得られる。
〈観測する恒星の数〉
先行のKeplerミッションにおいて、公転周期が10日より短いスーパーアース(地球半径の1.25~2倍の半径をもつ系外惑星)のトランジット検出率は約0.2%であった。これはトランジットの発生率(~5%)とTESS・恒星・惑星の位置関係による幾何学的なトランジットの確率(~5%)の積として算出された値である。このことから同じ検出率を仮定すると、TESSでは一つのスーパーアースの検出に対して、少なくとも500個の恒星を観測する必要があることがわかる。さらにスーパーアースを数百個発見するという要請から、100,000個以上の恒星を観測することが必要となる。
〈観測する恒星のタイプ〉
理想的には全てのスペクトル型を観測することが望ましいが、ミッションのコストやリスクを考慮すると、観測する恒星のスペクトル型を限定することが合理的である。そこでTESSミッションではスペクトル型がF5~M5までの主系列矮星の集中的な観測が計画された。まず進化末期の恒星や早期型矮星は大きく、小さな惑星の検出が難しいことが知られている。特にF5よりも高温のスペクトル型をもつ矮星は急速に回転し、スペクトル線が広がるため正確な視線速度観測も妨げられる。そのためフォローアップ観測での正確な測定に適さない。このことからF5よりも高温側のスペクトル型を持つ恒星はTESSのターゲット候補としては最適でない。
さらにスペクトル型の低温側では、M型矮星が特に魅力的なターゲットである。M型矮星は数が豊富で太陽系の近くにある恒星の約4分の3がM0~M5型の矮星である。しかしながらKeplerミッションのターゲットリストにおいてM型矮星はごく少数だったため、それらを周回するトランジット惑星は他に比べてあまり調査されていない。さらに小さい惑星のトランジット信号については、見かけの等級が同じでサイズがより大きい惑星と比べると、M型矮星の方が検出しやすい。このことは系外惑星の発見とJWSTやその他の天体望遠鏡によるフォローアップ観測の両方を容易にすることができる。そのためM型矮星はTESSのターゲット候補として望ましいと考えられた。
またM5よりも低温のスペクトル型をもつ恒星は希少であり、明るさも小さい。またそのような恒星は赤外線付近の波長で有利に観測できるが、これはミッションのコスト・複雑さ・リスクを大幅に増加させてしまう。さらに最も低温側のスペクトル型をもつ恒星をトランジットする惑星はMEarthサーベイのような地上の観測機器でも検出可能である。このことからM5よりも低温側のスペクトル型をもつ恒星は比較的にターゲット候補としては適さない。
以上の理由から、TESSミッションではF5~M5型の範囲のスペクトル型をもつ恒星に集中して観測が行われた。
スペースクラフト(宇宙機)
〈概要〉
TESSはアメリカの企業 Northrop Grumman Innovation Systems の LEOStar-2/750という衛星バスを使用している。この衛星バスは三軸方向のヒドラジン一液式推進系と2つのスタートラッカーをもつゼロモーメンタム方式の姿勢制御システムによって姿勢制御されている。機体に必要な指向精度は4つのリアクションホイールと科学用カメラの情報から算出される四元数を用いて達成されている。また衛星バスは2枚の展開型太陽電池パドルを装備している。この太陽電池パドルは合計415Wの電力を生み出すことができ、宇宙機全体で必要とされる290Wの電力を供給する。さらに衛星バスには機体に固定された直径0. 7mのハイゲインアンテナに接続されたKaバンド送信機が装備されている。送信機は2Wの電力で動作し、100Mb/sのデータ転送レートで地上にデータを送信することが可能である。このデータ転送レートの値は、宇宙機が近地点に位置する4時間の間に科学データを地上に送信するのに十分な値である。また宇宙機には太陽輻射圧によって角運動量が蓄積するため、それを排除するためにヒドラジンスラスターという装置も備えられている。
〈軌道〉
TESSの軌道は、近地点と遠地点がそれぞれ地球半径の17倍および59倍の位置にある楕円形をしている。この軌道は周期が13.7日であり、これまでのミッションでは使用されたことのない P/2として知られる月と2:1の軌道共鳴にある安定な軌道である。観測に適するように設定されたこの楕円軌道は様々な利点がある。まず黄道面から傾いているため地球や月によって長時間視界が遮られることがない。またこの軌道における月の重力による外乱を平均すると、宇宙機の遠地点が90°付近に留まるようになっているため操作も容易である。さらに軌道は常に地球の放射帯(ヴァン・アレン帯)の外側にあり、ミッション全体での電離放射量が10Gy以下の比較的低放射線量環境である。この環境は温度変化も非常に小さく(軌道のうち90%で温度変化<0.1℃/hr、全体でも<2℃/hrである)、CCD検出器をほぼ-75℃という適温で動作させることが可能である。軌道周期と軌道長半径は比較的一定であり、離心率と傾きの交換も周期8~12年と長期的である(これはKozai-Lidovメカニズムによる)。太陽からの外乱による周期6か月の短期的周期振動も存在するが、軌道は数十年やそれ以上のタイムスケールで安定的であり、軌道を維持するための推進力も必要としない。
さらにこの軌道への到達までには、効率的に月の重力を利用して推進力を増加させる機構を使うことができる。またこの機構を使用するために宇宙機が辿る経路は打ち上げ日時と機体に依存することになる。計画では、TESSはケープカナベラル宇宙軍施設 (Cape Canaveral/フロリダ州)から上空600kmの赤道に対して28. 5°傾いた中継軌道へと打ち上げられる。この軌道で固体推進剤ロケットモータを切り離し、さらにTESSに搭載されたスラスターを使用して回転力を小さくした後に太陽光電池パドルを展開する。その後、宇宙機のヒドラジン推進系による2回の燃料噴射により遠地点を第一段階で250,000km、第二段階で400,000kmまで上昇させる。2回の噴射はそれぞれ第一段階と第二段階の軌道の近地点で行われる。そして3回目の近地点における軌道調整の後、月フライバイによって黄道に対する傾きを40°まで上昇させる。その後、最終調整によって目標となる遠地点と公転周期13.7日を達成する計画である。最後の軌道には打ち上げの約60日後に到達し、その後すぐに観測が開始される。
〈周期感度〉
理想的には数時間程度の周期から1年やそれ以上の比較的長い周期までの広範囲で惑星を検出したい。しかし最大周期をいくつに設定するかによってミッションの持続期間が決定し、最終的にコストに影響を及ぼすため、最適な値を設定する必要がある。さらにトランジット法による観測は本質的に短い周期に大きく偏っている。実際、トランジットによる検出効率と惑星出現の周期依存性を考慮したKeplerの検出周期の分布は最大10日である。このことから10日程度の短い最大周期でも多くの系外惑星を発見することが可能である。
10日ほどの長さの最大周期を設定すれば、太陽のような恒星を周回するハビタブル惑星を除外することにはなってしまう。しかし全天を分割した観測範囲一つについて少なくとも40日以上の最大周期で観測すれば、M型矮星のハビタブルゾーンに位置する惑星を検出することは可能である。さらに分割した観測範囲のうちより広範囲に探索するセクターがあれば、後のJWSTの広範囲に連続した視野と一致させるのに都合が良い。またJWSTのそのような視野の範囲は黄道の極に集中している。以上のことから、最大周期は概ね10日程度とし、黄道の極付近においては可能な限り広く最大周期40日の範囲を取ることになった。
〈カメラとスキャン計画〉
TESSは同じカメラを4つ搭載しており、2年間の主要ミッション期間にそれらを連携させて全天観測を行う。1つのカメラは 24°×24° の広視野をもつ f/1.4 のレンズを装備している。レンズの口径は直径10cmであり、これは惑星に対する検出能をシミュレーションして決定された効果的な値である。4つのカメラの視野は1×4の配列として動作し、24°×96°の連結した視野を提供する。星の検出には高いケイデンスが必要なため、ターゲット候補の惑星や恒星への露出は2分毎に行われ、30分毎に視野全体のフルフレームイメージ (FFIs)も取得される。各カメラは次の特徴を持っている:
・24°×24°の視野
・100mmの効果的なひとみ径
・7つの光学要素をもつレンズ
・温度変化の影響を受けにくい(アサーマルな)設計
・600nm-1000nmのバントパス
・4つのCCDから成るMIT-Lincoln Labの16.8メガピクセル・低ノイズ・低電力のCCID-80検出器
探索する視野については、黄道の北半球及び南半球がそれぞれ黄道の緯度6°から黄道の極までの24°×96°を1セクターとして部分的に重なった13のセクターに分割されている。各セクターは太陽と反対側を向いた4つのカメラによって、軌道の2周期分(27.4日間) にわたり連続的に観測された。軌道を2周すると、次のセクターを観測するため視野を黄道の経度で約27°東に視野を移行する。このため半球を観測するのに1年、全天観測には2年を要する。このスキャンによって約30,000平方度が少なくとも27日間、黄道の極の近くでは約2800平方度が80日以上観測されることになる。さらに黄道の極の周囲では約900平方度が300日以上観測される。
参考文献
Ricker, G. R., et al.,”The Transiting Exoplanet Survey Satellite”/1406.0151.pdf (arxiv.org)
TESS – Transiting Exoplanet Survey Satellite (mit.edu)