HD 104985 b は、太陽系から 316.7 光年( パーセク)離れた恒星HD 104985 を周回する系外惑星で 2003 年に公開されました.恒星 HD 104985 は視等級 5.8, 絶対等級 0.9 です.この恒星は太陽の 1.6 倍の質量で、 半径は太陽の10.9 倍であり 表面温度は 4786 で、スペクトル型は G9 IIIです。この恒星の惑星系で HD 104985 b は、恒星 HD 104985 のまわりを 公転周期199.5 日で、 軌道長半径 0.95 天文単位 ( 142117977.2 km)で公転しています。
【HD 104985 b概要】
HD 104985は、きりん座の6等星(視等級)で地球から約317光年離れた場所にあります。この恒星から1天文単位より少し内側に公転軌道を持つ惑星がHD 104985 bです。HD 104985 bの半径は木星とほぼ同じで、質量は木星の8.3倍です。太陽系で例えると金星と地球の軌道の間にある木星サイズの惑星がHD 104985 bであり、地球とほぼ同じ距離を回っていますが、中心星が非常に巨大なため灼熱環境であると考えられます。
【日本で初めて検出された系外惑星 〜世界に示した独自性〜】
HD 104985 bは、岡山天体物理観測所の所有する188 cm反射望遠鏡で視線速度法により検出され、2003年に国立天文台に所属していた佐藤文衛氏(現東京工業大学)らによって発表されました。これは日本で初めての系外惑星の検出で、国内外で大きな注目を集めました。1995年に系外惑星が世界で初めて観測されて以来、熾烈な“プラネットハンティング競争”が世界中で行われていましたが、そこに日本も名乗りを上げることとなりました。
それまでの観測では太陽に似た星をターゲットにしていましたが、佐藤氏らは巨星という、進化が進み大きく膨れ上がった星の周りで惑星探査をはじめました。実際にHD 104985の半径は太陽の10.6倍で、佐藤氏らが観測候補として挙げていた巨星の中の1つでした。その後2年間の粘り強い観測の結果、見事巨星周りでも系外惑星が存在することを証明し系外惑星探査における日本の独自性をアピールしました。
【岡山天体物理観測所188 cm反射望遠鏡 〜半世紀に渡って日本の天文観測を支えた望遠鏡〜】
国立天文台のプロジェクトの一つである岡山天体物理観測所は、1962年に岡山県浅口市で観測を開始しました。プロジェクトとしての運用を終える2018年まで、約56年間に渡って優れた光赤外線天文観測所として多くの研究者に利用されてきました。この観測所で最も大きい望遠鏡が188 cm反射望遠鏡であり、数多くの重要な発見に貢献しています。特に系外惑星の発見は著しく、他の望遠鏡との共同観測も含めると現在までに58個の新たな系外惑星の発見に貢献しています。
(188cm望遠鏡の概要・功績の詳細はこちらを参照ください)
188cm反射望遠鏡(https://www.nao.ac.jp/research/telescope/188cm.html)
プロジェクト終了後、岡山天体物理観測所の望遠鏡は運用に携わっていた各大学の研究者に専用望遠鏡として引き継がれました。現在は、ドームの故障により188 cm反射望遠鏡は運用を停止しています。復旧作業が終わり、もう一度188 cm反射望遠鏡の活躍する姿が見られることを期待していましょう。
【京都大学岡山天文台せいめい望遠鏡 〜東アジア最大級の望遠鏡〜 】
188 cm望遠鏡のあとを継ぐように2019年に新たに岡山で運用が開始された望遠鏡があります。それが京都大学の所有するせいめい望遠鏡です。これは主鏡に口径3.8メートルの18枚複合鏡を持つ東アジア最大の望遠鏡です。(“最大”または“最大級”のどちらであるかについては諸説あり。詳細はこちらを参照ください。)
この「せいめい望遠鏡」という名前は、平安時代の陰陽師 安倍晴明に由来しています。全国で天体観測を行っていた安倍晴明は、現在の岡山天文台から北西にある阿部山の山頂付近に天体観測のための住居を構えていたとされています。そんな岡山にゆかりを持つ天文研究の大先輩である安倍晴明にちなんで「せいめい望遠鏡」と名付けられたのです。
せいめい望遠鏡でも系外惑星の探査・観測は行われており、2023年度後期からは新しくGAOES-RVという高分散分光器が運用を開始します。高分散分光器とは、望遠鏡の集めた光を波長ごとに分けて検出する装置で、視線速度法を用いた系外惑星の観測には欠かすことができません。今までの高分散分光器に比べて性能が向上し、GAOES-RVはより暗い星での系外惑星観測ができるようになると言われています。
(GAOES-RVの詳細はこちらを参照ください。)
日本初の系外惑星の検出から最新の観測装置まで、系外惑星探査の軌跡を辿ってきました。系外惑星の魅力は語り尽くせませんが、それらを発見している望遠鏡や観測装置にもまた違った魅力があります。みなさんが少しでも興味を持たれたならば、夜空に浮かぶ満点の星空だけではなく、地上に構える“大きな目”にも注目してみてはいかがでしょうか。
(文責:渡邊新)
HD 104985 bの詳細な情報はこちら