Kepler missionが提案され、承認されるまでの背景
Kepler missionはNASAで初めて太陽系外惑星の探査を主目的としたミッションで、2009年から2018年の9年間運用された。このミッションが実施されたきっかけは、NASA Ames Research Centerの研究者であるWilliam Boruckiが恒星を惑星が通過する際に恒星の輝度がわずかに減少することを検出するトランジット法(transit photometry)の研究を始めた1983年に遡る。彼と彼のチームは「ほとんどの恒星は惑星を有しており地球型惑星(terrestrial planets)はありふれている」という仮説を立てて、1992年に太陽系外惑星の探査を目的としたミッションをNASAに初めて提案するも採択されなかった。しかし、その後も研究の改良を行いながら提案を続けた。当時は太陽系外惑星に対して大きな注目を集めていなかったが、1995年に初の太陽系外惑星51 Pegasi bの発見(Mayor MichelとQueloz Didierによる発見、2019年にノーベル物理学賞を獲得)をきっかけに世界中から注目されるようになる。そして、2001年の5度目の提案でついに採択された。なお、ミッション名のKeplerの名前は17世紀のドイツの天文学者Johannes Kepler(惑星の運動に関する法則(ケプラーの法則)の発見者)から名づけられた。そして2009年に、 Kepler宇宙望遠鏡 はDelta IIロケットによってフロリダの ケープ・カナベラルから打ち上げられた。
搭載された光学系の特徴
Kepler宇宙望遠鏡は直径0.95mのシュミットコレクターを通して光を集め、直径1.4mの主鏡でCCDモジュールへ集光する宇宙望遠鏡である(図1)。21個のCCDモジュールからなり、各モジュールには 2つのCCD(2200×1024 pixel)が搭載されており、合計42個のCCDで撮像する(図2,3)。しかし、mission中に3つのモジュールで故障が生じ、mission後半では18個のモジュールでの運用となった。各CCDにはフラットナーレンズとバンドパスフィルターが備え付けられており、420から900 nmの波長の光を検出する(図4)。この波長域はM5型(例:プロキシマ・ケンタウリ)やG2型(例:太陽 )の恒星の発する光のピーク波長を含んでいる。
図1. Kepler宇宙望遠鏡の模式図
Credit: NASA
図2. CCDモジュール
Credit: NASA
図3. Kepler宇宙望遠鏡で得られる画像の例
Credits: NASA/Ames
図4. 検出可能な波長
Credit: NASA
観察エリア
太陽系外惑星を発見するには多くの恒星を観察することが求められるため、天の川銀河の平面の恒星が密集したエリアが理想である。しかし、トランジット法を用いた観察のために3.5年の間(少なくとも6年まで延長)同じ視野を観察する計画であり、毎年太陽を周回する際に太陽が視野に影響しない方向としては太陽の軌道から55°以上、上(北天)か下(南天)の方向を観察対象とする必要がある(図5)。比較の結果、南天に比べて星が豊富な北天の白鳥座付近が選ばれた(図6)。そして、この領域において150,000個以上の恒星を観察することを目標とした。 なお、太陽光発電パネルを太陽の方向に向けるために、93日おきに回転制御が行われた。Kepler宇宙望遠鏡によって地球サイズの惑星が検出される恒星までの距離は600光年から3,000光年であり、600光年より近い恒星は1%未満である。なお、3,000光年より遠い恒星は、トランジット法で地球サイズの惑星を観測するには暗すぎると考えられている(図7)。
図5. 観察方向と周回軌道
Credit: NASA
図6. 固定視野
Credit: NASA/JPL
図7. 観察範囲
Credit: NASA/JPL
運用実績・成果
Kepler宇宙望遠鏡は9年間にわたりデータを収集した後、さらなる科学活動に必要な燃料を使い果たしたため、2018年10月に地球から約1億8千万キロメートル離れた安全な軌道上で停止コマンドである‘Goodnight’が送信されてmission を終えた。2018年10月に活動を終えた時点で、「530,506個の恒星を観察」、「2,662個の太陽系外惑星を確定(候補ではない)」、「61回の超新星爆発を観測」、「678GBのデータを収集」、「2,946報の科学雑誌に投稿される」などの成果を得た。 また、太陽系外惑星の観測において、太陽系には存在しない惑星を特徴付けた。これらは地球より大きく海王星規模までのサイズであり、巨大地球型惑星(スーパーアース)と名付けられた。運用が終了した後もデータの解析は続けられており、新たな太陽系外惑星候補が現在も見つかっている。
(文責:小塚)
参考資料
https://www.nasa.gov/mission_pages/kepler/overview/index.html
https://www.nasa.gov/kepler/missiontimeline
https://keplergo.github.io/KeplerScienceWebsite/the-kepler-space-telescope.html
https://www.nasa.gov/mission_pages/kepler/spacecraft/index-mission.html
https://www.nasa.gov/pdf/189566main_Kepler_Mission.pdf
https://www.nasa.gov/kepler/presskit
https://www.nasa.gov/feature/ames/kepler-space-telescope-bid-goodnight-with-final-set-of-commands
https://www.nasa.gov/kepler/missionstatistics
http://planetary.jp/topics/JPL/2018-7271-jpl.html
https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/exoplanet_missions.jpg