HD 104985 b

HD 104985 b

HD 104985 b は、太陽系から 316.7 光年( パーセク)離れた恒星HD 104985 を周回する系外惑星で 2003 年に公開されました.恒星 HD 104985 は視等級 5.8, 絶対等級 0.9 です.この恒星は太陽の 1.6 倍の質量で、 半径は太陽の10.9 倍であり 表面温度は 4786 で、スペクトル型は G9 IIIです。この恒星の惑星系で HD 104985 b は、恒星 HD 104985 のまわりを 公転周期199.5 日で、 軌道長半径 0.95 天文単位 ( 142117977.2 km)で公転しています。

【HD 104985 b概要】

HD 104985は、きりん座の6等星(視等級)で地球から約317光年離れた場所にあります。この恒星から1天文単位より少し内側に公転軌道を持つ惑星がHD 104985 bです。HD 104985 bの半径は木星とほぼ同じで、質量は木星の8.3倍です。太陽系で例えると金星と地球の軌道の間にある木星サイズの惑星がHD 104985 bであり、地球とほぼ同じ距離を回っていますが、中心星が非常に巨大なため灼熱環境であると考えられます。

【日本で初めて検出された系外惑星 〜世界に示した独自性〜】

HD 104985 bは、岡山天体物理観測所の所有する188 cm反射望遠鏡で視線速度法により検出され、2003年に国立天文台に所属していた佐藤文衛氏(現東京工業大学)らによって発表されました。これは日本で初めての系外惑星の検出で、国内外で大きな注目を集めました。1995年に系外惑星が世界で初めて観測されて以来、熾烈な“プラネットハンティング競争”が世界中で行われていましたが、そこに日本も名乗りを上げることとなりました。

それまでの観測では太陽に似た星をターゲットにしていましたが、佐藤氏らは巨星という、進化が進み大きく膨れ上がった星の周りで惑星探査をはじめました。実際にHD 104985の半径は太陽の10.6倍で、佐藤氏らが観測候補として挙げていた巨星の中の1つでした。その後2年間の粘り強い観測の結果、見事巨星周りでも系外惑星が存在することを証明し系外惑星探査における日本の独自性をアピールしました。

【岡山天体物理観測所188 cm反射望遠鏡 〜半世紀に渡って日本の天文観測を支えた望遠鏡〜】

国立天文台のプロジェクトの一つである岡山天体物理観測所は、1962年に岡山県浅口市で観測を開始しました。プロジェクトとしての運用を終える2018年まで、約56年間に渡って優れた光赤外線天文観測所として多くの研究者に利用されてきました。この観測所で最も大きい望遠鏡が188 cm反射望遠鏡であり、数多くの重要な発見に貢献しています。特に系外惑星の発見は著しく、他の望遠鏡との共同観測も含めると現在までに58個の新たな系外惑星の発見に貢献しています。

(188cm望遠鏡の概要・功績の詳細はこちらを参照ください)

188cm反射望遠鏡(https://www.nao.ac.jp/research/telescope/188cm.html

プロジェクト終了後、岡山天体物理観測所の望遠鏡は運用に携わっていた各大学の研究者に専用望遠鏡として引き継がれました。現在は、ドームの故障により188 cm反射望遠鏡は運用を停止しています。復旧作業が終わり、もう一度188 cm反射望遠鏡の活躍する姿が見られることを期待していましょう。

【京都大学岡山天文台せいめい望遠鏡 〜東アジア最大級の望遠鏡〜 】

188 cm望遠鏡のあとを継ぐように2019年に新たに岡山で運用が開始された望遠鏡があります。それが京都大学の所有するせいめい望遠鏡です。これは主鏡に口径3.8メートルの18枚複合鏡を持つ東アジア最大の望遠鏡です。(“最大”または“最大級”のどちらであるかについては諸説あり。詳細はこちらを参照ください。)

せいめい望遠鏡(筆者撮影)

この「せいめい望遠鏡」という名前は、平安時代の陰陽師 安倍晴明に由来しています。全国で天体観測を行っていた安倍晴明は、現在の岡山天文台から北西にある阿部山の山頂付近に天体観測のための住居を構えていたとされています。そんな岡山にゆかりを持つ天文研究の大先輩である安倍晴明にちなんで「せいめい望遠鏡」と名付けられたのです。

せいめい望遠鏡でも系外惑星の探査・観測は行われており、2023年度後期からは新しくGAOES-RVという高分散分光器が運用を開始します。高分散分光器とは、望遠鏡の集めた光を波長ごとに分けて検出する装置で、視線速度法を用いた系外惑星の観測には欠かすことができません。今までの高分散分光器に比べて性能が向上し、GAOES-RVはより暗い星での系外惑星観測ができるようになると言われています。

(GAOES-RVの詳細はこちらを参照ください。)

日本初の系外惑星の検出から最新の観測装置まで、系外惑星探査の軌跡を辿ってきました。系外惑星の魅力は語り尽くせませんが、それらを発見している望遠鏡や観測装置にもまた違った魅力があります。みなさんが少しでも興味を持たれたならば、夜空に浮かぶ満点の星空だけではなく、地上に構える“大きな目”にも注目してみてはいかがでしょうか。

(文責:渡邊新)

HD 104985 bの詳細な情報はこちら

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/HD_104985_bJP.html

The Overview of Space Telescopes

太陽系外惑星の探査のmissionを持つ宇宙望遠鏡

NASA mission

Hubble 宇宙望遠鏡:

Credits: NASA(https://www.nasa.gov/content/goddard/hubble-space-telescope-design)

1990年に運用を開始し、2023年7月時点も運用継続中。直径2.4mの主鏡をもつ大型光学式宇宙望遠鏡。 観測波長は紫外線と可視光、近赤外線。地上約547km上空の軌道上を周回する。 太陽系外惑星の探査において、候補惑星に焦点を絞り使用されており惑星の大気を直接検出し、組成を調査した最初の望遠鏡。惑星が恒星と地球の間を通過する際に恒星の光が惑星の大気に吸収される。その吸収光の分析により、大気の成分分析を試みている。

Spitzer 宇宙望遠鏡:

Credits: NASA JPL(https://www.spitzer.caltech.edu/mission/store-and-dump-telemetry)

2003年に運用開始され、2020年まで運用された。口径が0.85mの主鏡を持つ赤外線観測衛星。観測波長は赤外~遠赤外線(3~180 μm)。地球を追いかける形で太陽周回軌道上に存在する。太陽系外惑星の探査において、太陽系外の惑星(恒星の近傍を周回する巨大ガス惑星、通称「ジャイアントジュピター」)の光を直接検出した最初の望遠鏡であり、これらの遠い惑星の温度、風、大気組成を決定することを可能にした。

Kepler 宇宙望遠鏡:

Credits: NASA JPL Credits: NASA/Ames/JPL-Caltech/T Pyle(https://www.nasa.gov/kepler/missiontimeline)

2009年に運用開始され、2018年まで運用された。直径が1.4mの主鏡を持つ赤外線観測衛星。観測波長は可視光~近赤外線(420~900 nm)。地球を追いかける形で太陽周回軌道上に存在する。 NASAで初めての太陽系外惑星の探査を主目的としたミッション。トランジット法を用いて2,662個の太陽系外惑星を確定した。

ExokyotoのKepler宇宙望遠鏡の記事はこちら

Kepler Space Telescope

TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite)

Credits: NASA (https://www.nasa.gov/content/about-tess)

2018年に運用を開始し、2023年7月時点も継続中。広視野カメラを使用して全天の85%の観測を行う。 Kepler宇宙望遠鏡の400倍の面積をトランジット法を用いて観測。地球周回軌道は軌道離心率の高い楕円軌道を周回する。太陽系外惑星の探査を主目的とし、トランジット法で何千もの系外惑星候補を抽出する。真の太陽系外惑星であることを確認するために、地上望遠鏡と協力して惑星の大きさ、軌道、質量を決定する。

ExokyotoにおけるTESSの記事はこちら

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)

James Webb 宇宙望遠鏡:

Credits: NASA (https://webb.nasa.gov/content/webbLaunch/deploymentExplorer.html#0)

2021年に運用を開始。直径6.5 mの巨大な主鏡を持つ。赤外線観測に主眼が置かれている。地球から約150万km離れた、太陽・地球系のラグランジュ点L2を周回する。太陽系外惑星の探査ではトランジット法で惑星の大気を測定する。地上望遠鏡(ドップラー法)と協力して質量も測定する。恒星近くの惑星を撮影し、分光法により色や冬と夏の差、植生、自転、天候も測定。

 

ESA/European mission

COROT(Convection, Rotation and planetary Transits):

Credits: ESA (https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/COROT_overview)

2006年に運用が開始され、2014年まで運用された。トランジット法での系外惑星の検出を主目的とした初めての宇宙機(Keplerよりも先に運用開始)。口径0.27mの反射式望遠鏡。4つの CCD 検出器を搭載。高度900kmの地球の軌道上を周回。

Gaia

Credits: ESA/ATG medialab; background: ESO/S. Brunier
(https://www.explore-exoplanets.eu/resource/gaia/)

2013年に運用を開始し、現在(2023年7月時点)も運用継続中。116個のCCD 焦点面アレーを搭載。地球から約150万km離れた、太陽・地球系のラグランジュ点L2を周回する。トランジット法、ドップラー法、分光法の3つの測定法により太陽系外惑星の探査を行う。観測波長は 330~1050nmをカバーし、プリズムによって分光エネルギー分布の測定を行う。

Cheops

Credits: ESA (https://www.cosmos.esa.int/web/cheops)

2019年に運用を開始し、現在(2023年7月時点)も運用継続中。系外惑星観測用の衛星で、すでに発見されている系外惑星をトランジット法により詳細に観察することが目的。320mmと主鏡68mmの副鏡を有する宇宙望遠鏡。観測波長は50nmから1100nm。高度700 kmの地球の軌道上を周回する。

(文責:小塚)

参考資料

Exoplanet mission

https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/exoplanet_missions.jpg

https://www.cosmos.esa.int/web/cheops

Hubble

https://www.nasa.gov/mission_pages/hubble/observatory

https://www.nasa.gov/content/goddard/hubble-space-telescope-optics-system

https://www.nasa.gov/content/goddard/hubble-space-telescope-science-instruments

https://hubblesite.org/science/exoplanets

Spitzer

https://www.spitzer.caltech.edu/mission/fast-facts

https://www.spitzer.caltech.edu/mission/exoplanets

Kepler

https://keplergo.github.io/KeplerScienceWebsite/the-kepler-space-telescope.html

https://www.nasa.gov/kepler/missionstatistics

TESS

https://www.nasa.gov/content/about-tess

https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/tesssciencewritersguidedraft23.pdf

James webb

https://webb.nasa.gov/content/webbLaunch/needToKnow.html#aboutWebbImages

https://webb.nasa.gov/content/science/origins.html

COROT

https://sci.esa.int/web/corot

Gaia

https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/photometric-instrument

https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/exoplanets

https://sci.esa.int/documents/33580/36006/1567260289934-Gaia_media_kit_v20160921.pdf

Cheops

https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Cheops

https://sci.esa.int/web/cheops/

Kepler Space Telescope

Kepler missionが提案され、承認されるまでの背景

Kepler missionはNASAで初めて太陽系外惑星の探査を主目的としたミッションで、2009年から2018年の9年間運用された。このミッションが実施されたきっかけは、NASA Ames Research Centerの研究者であるWilliam Boruckiが恒星を惑星が通過する際に恒星の輝度がわずかに減少することを検出するトランジット法(transit photometry)の研究を始めた1983年に遡る。彼と彼のチームは「ほとんどの恒星は惑星を有しており地球型惑星(terrestrial planets)はありふれている」という仮説を立てて、1992年に太陽系外惑星の探査を目的としたミッションをNASAに初めて提案するも採択されなかった。しかし、その後も研究の改良を行いながら提案を続けた。当時は太陽系外惑星に対して大きな注目を集めていなかったが、1995年に初の太陽系外惑星51 Pegasi bの発見(Mayor MichelとQueloz Didierによる発見、2019年にノーベル物理学賞を獲得)をきっかけに世界中から注目されるようになる。そして、2001年の5度目の提案でついに採択された。なお、ミッション名のKeplerの名前は17世紀のドイツの天文学者Johannes Kepler(惑星の運動に関する法則(ケプラーの法則)の発見者)から名づけられた。そして2009年に、 Kepler宇宙望遠鏡 はDelta IIロケットによってフロリダの ケープ・カナベラルから打ち上げられた。

搭載された光学系の特徴

Kepler宇宙望遠鏡は直径0.95mのシュミットコレクターを通して光を集め、直径1.4mの主鏡でCCDモジュールへ集光する宇宙望遠鏡である(図1)。21個のCCDモジュールからなり、各モジュールには 2つのCCD(2200×1024 pixel)が搭載されており、合計42個のCCDで撮像する(図2,3)。しかし、mission中に3つのモジュールで故障が生じ、mission後半では18個のモジュールでの運用となった。各CCDにはフラットナーレンズとバンドパスフィルターが備え付けられており、420から900 nmの波長の光を検出する(図4)。この波長域はM5型(例:プロキシマ・ケンタウリ)やG2型(例:太陽 )の恒星の発する光のピーク波長を含んでいる。

図1. Kepler宇宙望遠鏡の模式図

Credit: NASA

図2. CCDモジュール

Credit: NASA

図3. Kepler宇宙望遠鏡で得られる画像の例

Credits: NASA/Ames

図4. 検出可能な波長

Credit: NASA

観察エリア

太陽系外惑星を発見するには多くの恒星を観察することが求められるため、天の川銀河の平面の恒星が密集したエリアが理想である。しかし、トランジット法を用いた観察のために3.5年の間(少なくとも6年まで延長)同じ視野を観察する計画であり、毎年太陽を周回する際に太陽が視野に影響しない方向としては太陽の軌道から55°以上、上(北天)か下(南天)の方向を観察対象とする必要がある(図5)。比較の結果、南天に比べて星が豊富な北天の白鳥座付近が選ばれた(図6)。そして、この領域において150,000個以上の恒星を観察することを目標とした。 なお、太陽光発電パネルを太陽の方向に向けるために、93日おきに回転制御が行われた。Kepler宇宙望遠鏡によって地球サイズの惑星が検出される恒星までの距離は600光年から3,000光年であり、600光年より近い恒星は1%未満である。なお、3,000光年より遠い恒星は、トランジット法で地球サイズの惑星を観測するには暗すぎると考えられている(図7)。

図5. 観察方向と周回軌道

Credit: NASA

図6. 固定視野

Credit: NASA/JPL

図7. 観察範囲

Credit: NASA/JPL

運用実績・成果

Kepler宇宙望遠鏡は9年間にわたりデータを収集した後、さらなる科学活動に必要な燃料を使い果たしたため、2018年10月に地球から約1億8千万キロメートル離れた安全な軌道上で停止コマンドである‘Goodnight’が送信されてmission を終えた。2018年10月に活動を終えた時点で、「530,506個の恒星を観察」、「2,662個の太陽系外惑星を確定(候補ではない)」、「61回の超新星爆発を観測」、「678GBのデータを収集」、「2,946報の科学雑誌に投稿される」などの成果を得た。 また、太陽系外惑星の観測において、太陽系には存在しない惑星を特徴付けた。これらは地球より大きく海王星規模までのサイズであり、巨大地球型惑星(スーパーアース)と名付けられた。運用が終了した後もデータの解析は続けられており、新たな太陽系外惑星候補が現在も見つかっている。

(文責:小塚)

参考資料

https://www.nasa.gov/mission_pages/kepler/overview/index.html

https://www.nasa.gov/kepler/missiontimeline

https://keplergo.github.io/KeplerScienceWebsite/the-kepler-space-telescope.html

https://www.nasa.gov/mission_pages/kepler/spacecraft/index-mission.html

https://www.nasa.gov/pdf/189566main_Kepler_Mission.pdf

https://www.nasa.gov/kepler/presskit

https://www.nasa.gov/feature/ames/kepler-space-telescope-bid-goodnight-with-final-set-of-commands

https://www.nasa.gov/kepler/missionstatistics

http://planetary.jp/topics/JPL/2018-7271-jpl.html

https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/exoplanet_missions.jpg

WASP-121 b

WASP-121 b は、太陽系から 853.8 光年( パーセク)離れた恒星WASP-121 を周回する系外惑星で 2015 年に公開されました.
恒星 WASP-121 は視等級 10.4, 絶対等級 3.3 です.
この恒星は太陽の 1.4 倍の質量で、 半径は太陽の1.5 倍であり 表面温度は 6460 で、スペクトル型は F6Vです。
この恒星の惑星系で WASP-121 b は、恒星 WASP-121 のまわりを 公転周期1.3 日で、 軌道長半径 0.03 天文単位 ( 3805769.8 km)で公転しています。

公転と自転周期がほぼ同時のホット・ジュピター。昼半球と夜半球の気温差によりルビーやサファイアの雨?

2015年に太陽系外惑星探査プロジェクトスーパーWASPによる観測で発見された。
地球から「とも座」の方向におよそ880光年離れた位置にある灼熱巨大ガス惑星で、F型主系列星WASP-121の周囲を公転している。質量は木星の約1.2倍、半径は木星の約1.8倍で、恒星(WASP-121)から380万kmとかなり近い距離を1日余り(約30時間)で公転する。表面温度は約2000 K、上層大気は約2500Kにもなる「ホット・ジュピター」の一つ。
自転周期が公転周期とほぼ同じで、半面は常に恒星を向く昼半球(もう半面は常に外を向く夜半球)となるのが特徴的。
夜半球ですら気温が1500℃を超えるので、地球の様な水の雲ではなく、鉄やマグネシウム、クロム、バナジウムといった金属で構成される雲が存在している。
2017年、ハッブル宇宙望遠鏡による観測でWASP-121 bの大気組成が水蒸気、酸化バナジウム(II)、酸化チタン(II)が含まれている事が明らかになり、成層圏が存在することはほぼ間違いないとされる。

2019年、恒星に近いことから潮汐力によってWASP-121 bは引き裂かれる寸前といえる状態で、フットボールのような形状になっていると考えられる。David Sing氏らはハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」の観測データを使い、雲のなかに凝縮している鉄やマグネシウムといった金属までもが、軽い元素(水素やヘリウム)とともに惑星から離れた宇宙空間へ流出していることを確認した。

2022年、ハッブル宇宙望遠鏡でWASP-121 bの昼半球と夜半球の両方のスペクトル解析により、地球とは異なる水循環が確認された。常に恒星を向く昼半球では上層大気の温度が最大で3000℃を超え、水は蒸発してさらに水素と酸素に分解される。一方、夜半球の上層気温は1500℃にまで下がるため、昼半球と夜半球で1500℃も気温差が生まれることで強風が吹き抜け、水素と酸素を夜半球まで運び、夜半球側で水素と酸素が再結合して水蒸気となり、そのまま再び昼半球に吹き込むという循環をもつ。天文物理学者のTansu Daylan氏によると、この強風は20時間程度で惑星全体の雲を移動させることができるとされる。
WASP-121 bにて様々な金属元素(バナジウム、鉄、クロム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ニッケルなど)は確認されたが、アルミニウムやチタンが検出されなかった。研究チームはアルミニウムやチタンが凝縮し地表に降り注いでしまったためだと推測し、アルミニウムは大気中の酸素と凝結すると「コランダム」という鉱物になり、コランダムにクロムや鉄、チタン、バナジウムなどの不純物が含まれるとルビーやサファイアになるため、WASP-121 bの夜半球に液体のルビーやサファイアが雨となって降り注いでいる可能性があると推測した。

Delrez, L. et al. (2016). “WASP-121 b: a hot Jupiter close to tidal disruption transiting an active F star”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (4): 4025-4043. arXiv:1506.02471. Bibcode: 2016MNRAS.458.4025D. doi:10.1093/mnras/stw522. ISSN 0035-8711.
Evans, Thomas M. et al. (2017). “An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere”. Nature 548 (7665): 58-61. arXiv:1708.01076v1. Bibcode: 2017Natur.548…58E. doi:10.1038/nature23266. ISSN 0028-0836.
David K. Sing. et al. (2019). “The Hubble Space Telescope PanCET Program: Exospheric Mg ii and Fe ii in the Near-ultraviolet Transmission Spectrum of WASP-121b Using Jitter Decorrelation”.The Astronomical JournalVolume 158Number 2https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ab2986/pdf
Mikal-Evans, T., Sing, D.K., Barstow, J.K. et al. Diurnal variations in the stratosphere of the ultrahot giant exoplanet WASP-121b. Nat Astron 6, 471–479 (2022).https://doi.org/10.1038/s41550-021-01592-w An exotic water cycle and metal clouds on the hot Jupiter WASP-121 b | Max Planck Institute for Astronomy (mpia.de)

(文責:小川)

Imaginary picture of WASP-121 b

Imaginary Picture of WASP-121 b: Illustrated by Yuna Watanabe

TRAPPIST-1 系

(Imaginary TRAPPIST-1 System by Exoplanetkyoto Image Credit: Yosuke A. Yamashiki, Fuka Takagi, Ryusuke Kuroki, Natsuki Hosono)

trappist_d
(Imaginary Picture of TRAPPIST-1 d, Credit Shione Fujita & SGH Moriyama High School)

TRAPPIST-1 は、みずがめ座に位置し、太陽系からおよそ39光年離れたところに存在する、M8型の赤色矮星で、表面温度2550K、半径はProxima Centauriより小さい0.117太陽半径、質量は0.08太陽質量です。木星の半径は0.1太陽半径、質量は0.001太陽質量なので、見かけ上木星よりわずかに大きく、質量は木星の80倍程度なので、いわゆる自分で光るギリギリの大きさの恒星(矮星)だと言えます。Ultra Cool Dwarf Star(超低温矮星)とも言われています。

(TRAPPIST-1の大きさの比較図 左はProxima Centauri星との比較、右は太陽との比較)

TRAPPISTとは、TRAnsiting Planets and PlanetesImals Small Telescopesの略で、ベルギー・リエージュ大学(http://www.ulg.ac.be/cms/c_5000/accueil)の天文地学海洋専攻(AGO)のプロジェクトでチリのESO La Silla 天文台 とモロッコのOukaïmden 天文台(2016.10.6開始)に設置された望遠鏡ネットワークであり、このTRAPPIST-1は2016年にLa Silla天文台で発見され、地球よりわずかに大きな惑星が3つ、このクラスの赤色矮星の周りに初めて発見されました1) 。さて、特にこのTRAPPIST-1系のハビタブルゾーンにあると言われた3番目の惑星TRAPPIST-1dのトランジット観測による周期と軌道が確定せず、ハビタブルゾーンの惑星発見のニュースはキャンセルされるかと心配されていました。ところがそれがさらなる大発見につながったのです。

2017年2月22日(日本時間2月23日午前3時)、NASAはTRAPPIST系に合計7つの惑星が発見されたと発表しました。また、そのうち3-4つはハビタブルゾーンにあると考えられています。

(Imaginary Picture of TRAPPIST-I b, credit, Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

<潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 dの想像図 credit: Miu Shimizu, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

<潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 eの想像図 credit: Rina Maeda, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

<TRAPPIST-1 eの想像図 credit: Yui Nagato, Habitable Research Group SGH Moriyama High School>

(潮汐ロックされたと仮定した場合のTRAPPIST-1 fの想像図 (アイボールアース), credit: Haruka Inagaki, Habitable Research Group, SGH Moriyama High School)

(Imaginary Picture of TRAPPIST-I h, covered with imaginary ice, credit, Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

(TRAPPIST-1の7つの惑星群の公転の状況)

それぞれの公転軌道半径は(TRAPPIST-1 b, c, d, e, f, g, hの順で) 0.011, 0.015, 0.021, 0.028, 0.037, 0.045, 0.063 天文単位に存在し、半径はそれぞれ地球の1.08, 1.05, 0.77, 0.92, 1.04, 1.12, 0.76倍と、ほぼ地球の大きさに等しいと見積もられています。この星のハビタブル・ゾーンは太陽系相当天文単位(SEAU)によると、
金星相当軌道 0.016 天文単位
地球相当軌道 0.023天文単位
火星相当軌道0.035天文単位
trappist-1_d_orbh

(SEAUによるハビタブルゾーンの位置)

Kopparapu et al.2013によると
内側境界Recent Venus 0.019天文単位
地球サイズ惑星の暴走温室限界 0.024天文単位
外側境界最大温室限界0.048天文単位
trappist-1_d_orbk

(Kopparapu et al. によるハビタブルゾーンの位置)

となっており、SEAUによると、bは内側境界の内側で温度は高く、c, d, eはハビタブル・ゾーンに存在すると考えられています。

(SEAUによるハビタブルゾーンとTRAPPIST-1b,c,d,e,f,g,hの軌道位置,赤線が金星相当軌道,緑が地球相当軌道,水色が火星相当軌道,青がスノーライン)

ただし、TRAPPIST-1 bにおいても、潮汐ロックされているとすれば、惑星の昼半球と夜半球の境界領域にハビタブル・ゾーンが存在する可能性が指摘されており、また、他のf,gについてもスノーラインの内側にあり、潮汐力や内部の熱源などあれば、ハビタブルゾーンと考えられる可能性もあります。

また、Kopparapu et al.2013によると、ハビタブルゾーンにある惑星は、d, e, f ,g となり、先ほどのcは内側境界の中に位置してしまいます。TRAPPIST-I dはしかしながらRecent Venusの内側に位置はしますが、暴走温室限界線の内側にあるので、そのままでは海洋は存在できませんが、潮汐ロックされている場合境界領域(terminator)に狭い海が存在しうるとも考えられます。TRAPPIST-I gはしかしながら、外側境界最大温室限界付近のため、十分な温室効果ガスがある場合のみ居住可能だと考えられます。

(Kopparapu et al. 2013 によるハビタブルゾーンとTRAPPIST-1b,c,d,e,f,g,hの軌道位置,赤線がRecent Venus境界線、緑色が薄い色からそれぞれ火星・地球・スーパーアースサイズの暴走温室限界線,その外側の薄青色が最大温室効果限界線(Maximum G), その外側の青が初期火星線(Early Mars)。この判定によるとTRAPPIST-1 e, f, gがハビタブルゾーンとなる)

NASAの公式ページには、カラフルなイメージ図やVR, 3Dイメージなども公開されています。

https://exoplanets.nasa.gov/trappist1/

カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(JPL)-Spitzer宇宙赤外望遠鏡のページによると、TRAPPIST-1の惑星のほとんどすべてが潮汐ロックされており(すなわち、常に中心星TRAPPIST-1に同じ面を向けており)、乾燥して暑い(熱い)昼半球と、寒くて氷に覆われているであろう夜半球にわかれているだろうとされています。ハビタブルゾーンに存在する惑星はTRAPPIST-1 e, f, gであるが(b-hの)いずれの惑星も液体の水が潜在的に存在する可能性があるとされている。また境界領域(terminator)に海が存在するのはTRAPPIST-1dで、海が広く存在する可能性のあるTRAPPIST-1e,fでも昼半球に集中しており、夜半球は氷で覆われているであろう、と解説がされています。このページではTRAPPIST-1 bは木星の衛星イオ(Io)のようであり、また最も寒いTRAPPIST-1 hはエウロパ(Europa)のように描かれています。

http://www.spitzer.caltech.edu/images/6266-ssc2017-01a-TRAPPIST-1-Planet-Lineup

2018年2月のより詳細な調査結果によって、いくつかの惑星は地球よりも水を大量に保有している可能性も示唆されています。より中心星に近いb,cでは水蒸気、d,e,fでは液体と氷、そしてgは大部分が氷としてでしょう。この詳細調査によって、それぞれの惑星の密度がより正確に求められました。現在ではTRAPPISTシステムは最もよく観測された惑星システムの一つといえます。

七つの地球サイズの惑星にそれぞれ液体の水が存在する可能性のある惑星系というのは、非常に興味深い惑星系です。また赤色矮星の寿命は太陽とくらべて桁違いに長いので、もしかすると非常に長い間進化した安定的な生命体が文明を築き、それぞれの惑星間で文明交流を繰り返しながら今後も長きにわたって存在してゆく、「理想郷」なのかもしれません*。
(文責:山敷庸亮)

TRAPPIST-1についての詳しいデータは以下のデータベースに

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/TRAPPIST-1.html

* 実際に理想郷かどうかについて、以下のような懸念と論点もあります(野津翔太・山敷庸亮)

1) M型星は黒点活動・フレア等が太陽型星より活発であり、ハビタブルゾーンでの紫外線・X線強度などが強い。それらがハビタビリティにどう影響するかは不明。惑星大気が剥ぎ取られている可能性も否定できないが、逆に厚い大気に覆われていれば、これらが高エネルギー電磁波のシールドになる可能性もある。ただし、潮汐ロックされているとすれば、地磁気が存在しない可能性もあるため、その点では荷電粒子の直撃を受ける可能性も高い。
2) M型星の中でも低温側の星は全球対流状態にあると同時に、自転・活動性の振る舞いがM型の高温側の星に比べて良く分かっていない部分もあるため、実際どの程度このTRAPPIST-1が上記の活動があるのかはわからない。

なお、イラストにおいてexoplanetkyoto のページでは、潮汐ロックは起こりうるであろうが、それぞれ自転している惑星を想定しての想像図となっています

以下、Stellar Windowを利用して表示したTRAPPIST-1の星図上での位置。

trappist-1_d_stz0
(Position in Stellar Map of star TRAPPIST-1 and its Exoplanet TRAPPIST-1 b,c,d,e,f,g,h)
trappist-1_d_stz3
(Zoomed pos.in Stellar Map of star TRAPPIST-1 and its Exoplanet TRAPPIST-1 b,c,d,e,f,g,h)

1)Michaël Gillon, Emmanuël Jehin, Susan M. Lederer, Laetitia Delrez, Julien de Wit, Artem Burdanov, Valérie Van Grootel, Adam J. Burgasser, Amaury H. M. J. Triaud, Cyrielle Opitom, Brice-Olivier Demory, Devendra K. Sahu, Daniella Bardalez Gagliuffi, Pierre Magain & Didier Queloz. Temperate Earth-sized planets transiting a nearby ultracool dwarf star, Nature 533, 221–224 (12 May 2016) doi:10.1038/nature17448, Received 11 January 2016 Accepted 18 February 2016 Published online 02 May 2016
http://www.nature.com/nature/journal/v533/n7602/full/nature17448.html

https://www.theguardian.com/science/2016/may/02/could-these-newly-discovered-planets-orbiting-an-ultracool-dwarf-host-life

2)Michaël Gillon, Amaury H. M. J. Triaud, brice-Olivier Demory, Emmanuël Jehin1, Eric Agol, Katherine M. Deck, Susan M. Lederer, Julien de Wit, Artem burdanov, James G. Ingalls, Emeline bolmont, Jeremy Leconte, Sean N. Raymond, franck Selsis, Martin Turbet, Khalid barkaoui, Adam burgasser, Matthew R. burleigh, Sean J. Carey, Aleksander Chaushev, Chris M. Copperwheat, Laetitia Delrez, Catarina S. fernandes, Daniel L. Holdsworth, Enrico J. Kotze, Valérie Van Grootel, yaseen Almleaky, Zouhair benkhaldoun, Pierre Magain & Didier Queloz. Seven temperate terrestrial planets around the nearby ultracool dwarf star TRAPPIST-1. Nature 542, 456–460 (23 February 2017) doi:10.1038/nature21360.

Received Accepted Published online 

http://www.nature.com/nature/journal/v542/n7642/full/nature21360.html

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS)

〈ミッション概要〉

TESSは太陽系近傍にある明るい恒星の周りを周回する惑星を、トランシット法によって探索することを目的とした2年に及ぶMITが率いるNASAのミッションである。TESSは2018年4月にSpaceX社のFalcon9に乗せて打ち上げられた。それから約60日後に予定していた周期13.7日の楕円軌道に到達し、観測を開始した。約2年のミッション期間で、惑星によってトランジットという現象が起こる主系列矮星を少なくとも200,000個観測するために、 TESSには広範囲の視野を持つ4つのCCDカメラが搭載されている。TESSは先に行われたNASAのKeplerミッションに比べて350倍の広さとなる全天の85%以上を探索し、ターゲットとなる恒星の光度は2分ごとに記録される。また4つのカメラ視野全体(天球上の24°×96°に及ぶ範囲)のフルフレームイメージも30分ごとに記録される。TESSのターゲットとなる恒星はKeplerミッションのターゲットに比べて30~100倍明るいため、フォローアップ観測によって系外惑星が特徴づけやすくなっている。TESSは全天観測によって海王星よりも小さいサイズの惑星を1,000個以上発見することが期待されており、その中には数十個の地球サイズ惑星が含まれている。また観測データは、多くの研究者がすぐに新たな惑星の研究に着手できるよう4か月ごとにデータが公開されている。

〈ミッションの背景〉

惑星が観測者と恒星の間を横切ると、その惑星によって恒星の光の一部が遮られる現象が起こる。このような現象はトランジットと呼ばれ、系外惑星の検出方法の一つとして利用されている。トランジットする惑星に対しては惑星の質量、半径、軌道に関する情報、さらには大気組成を推定することが可能なのでトランジット惑星は非常に重要である。

その中でも特に興味深いのは、地球サイズから海王星サイズの大きさをもつ系外惑星である。しかしながら太陽系にはそのようなサイズの惑星が存在しないため、それらの惑星については多くのことが分かっていない。TESSの先行ミッションであるKelperミッションでは、そのような地球~海王星サイズの惑星が数多く存在し、多様な組成や興味深い周回軌道を持っていることを明らかになり、系外惑星の研究に革命をもたらした。しかしKeplerで観測された恒星の多くは詳細なフォローアップ観測をするためには明るさが十分ではなかった。

そこでTESSミッションでは、地球から約200光年以内の太陽系近傍にある明るい恒星を探索してトランジット惑星を発見することが計画された。TESSが観測する恒星は、Keplerが観測したものに比べて概ね30~100倍程度明るいため、そのような恒星の周囲で発見された惑星は Keplerで発見されたものに比べてはるかにフォローアップ観測が容易である。

〈ミッションの目標〉

TESSの主要なミッションは2018年7月25日から2020年7月4日までの2年間行われた。この2年間で、TESSは地上からのフォローアップ観測によって特徴づけることができる太陽系近傍の惑星を発見することを主要な目標として探索を行なった。特にTESSミッションにおける科学的な要請は次のようなものである。

  1. 軌道周期が10日より短く、半径が地球の5倍未満の大きさの惑星および少なくとも地球の2.5倍の半径を持つ惑星を発見するために200,000個以上の恒星を観測すること。
  2. 黄道の極の周辺領域にある約10,000個の恒星の周りに、軌道周期が120日までの惑星を見つけること。
  3. 惑星半径が地球の4倍未満の少なくとも50個の惑星の質量を決定すること。

このような科学的要請により、TESSは地球サイズの惑星を含む約20,000個の系外惑星を発見することが期待され、特に地球サイズに近い大きさの惑星については、50個以上の地球サイズ惑星と地球の1~2倍の大きさを持つ惑星を500個発見する計画である。TESSによる観測において、主に地球半径の2倍よりも小さい惑星は2分毎に得られる恒星の光度データから発見され、それよりも大きな惑星の多くは30分毎に得られるフルフレームイメージから発見されると想定された。また海王星サイズよりも大きい惑星に関しては17,000個以上発見することが期待された。

特にTESSの最も重要な目標は、惑星の質量や大気組成の推定に十分な明るさをもつ恒星を周回する海王星よりも小さなトランジット惑星を数千個発見することであった。そしてこの目標は2年間におよぶ全天観測によって達成された。2年間のミッションの間には、数十万個もの恒星に対して異なる2種類のタイムスケールで測光が行われた。得られたTESSの観測データの主な価値は、データの数や網羅性ような統計的なものではなく、現在稼働している観測機器やその後予定されている機器によるフォローアップ観測の容易さにあった。TESSのトランジット観測によって主星に対する惑星の大きさおよび軌道に関するパラメータを決定することができるが、さらに地上からその系外惑星をフォローアップ観測することによって惑星の質量も推定することができる。また惑星の大きさと質量を組み合わせることで惑星の密度が推定でき、その惑星の組成(巨大ガス惑星?水惑星?岩石惑星?など)の予想が可能になる。それに加えてトランジット観測は惑星同士の相互作用のような惑星系のダイナミクスの研究にも活用できる。このようにして、TESSによる観測で系外惑星について様々な情報が得られる。

〈観測する恒星の数〉

先行のKeplerミッションにおいて、公転周期が10日より短いスーパーアース(地球半径の1.25~2倍の半径をもつ系外惑星)のトランジット検出率は約0.2%であった。これはトランジットの発生率(~5%)とTESS・恒星・惑星の位置関係による幾何学的なトランジットの確率(~5%)の積として算出された値である。このことから同じ検出率を仮定すると、TESSでは一つのスーパーアースの検出に対して、少なくとも500個の恒星を観測する必要があることがわかる。さらにスーパーアースを数百個発見するという要請から、100,000個以上の恒星を観測することが必要となる。

〈観測する恒星のタイプ〉

理想的には全てのスペクトル型を観測することが望ましいが、ミッションのコストやリスクを考慮すると、観測する恒星のスペクトル型を限定することが合理的である。そこでTESSミッションではスペクトル型がF5~M5までの主系列矮星の集中的な観測が計画された。まず進化末期の恒星や早期型矮星は大きく、小さな惑星の検出が難しいことが知られている。特にF5よりも高温のスペクトル型をもつ矮星は急速に回転し、スペクトル線が広がるため正確な視線速度観測も妨げられる。そのためフォローアップ観測での正確な測定に適さない。このことからF5よりも高温側のスペクトル型を持つ恒星はTESSのターゲット候補としては最適でない。

さらにスペクトル型の低温側では、M型矮星が特に魅力的なターゲットである。M型矮星は数が豊富で太陽系の近くにある恒星の約4分の3がM0~M5型の矮星である。しかしながらKeplerミッションのターゲットリストにおいてM型矮星はごく少数だったため、それらを周回するトランジット惑星は他に比べてあまり調査されていない。さらに小さい惑星のトランジット信号については、見かけの等級が同じでサイズがより大きい惑星と比べると、M型矮星の方が検出しやすい。このことは系外惑星の発見とJWSTやその他の天体望遠鏡によるフォローアップ観測の両方を容易にすることができる。そのためM型矮星はTESSのターゲット候補として望ましいと考えられた。

またM5よりも低温のスペクトル型をもつ恒星は希少であり、明るさも小さい。またそのような恒星は赤外線付近の波長で有利に観測できるが、これはミッションのコスト・複雑さ・リスクを大幅に増加させてしまう。さらに最も低温側のスペクトル型をもつ恒星をトランジットする惑星はMEarthサーベイのような地上の観測機器でも検出可能である。このことからM5よりも低温側のスペクトル型をもつ恒星は比較的にターゲット候補としては適さない。

以上の理由から、TESSミッションではF5~M5型の範囲のスペクトル型をもつ恒星に集中して観測が行われた。

スペースクラフト(宇宙機)

〈概要〉

TESSはアメリカの企業 Northrop Grumman Innovation Systems の LEOStar-2/750という衛星バスを使用している。この衛星バスは三軸方向のヒドラジン一液式推進系と2つのスタートラッカーをもつゼロモーメンタム方式の姿勢制御システムによって姿勢制御されている。機体に必要な指向精度は4つのリアクションホイールと科学用カメラの情報から算出される四元数を用いて達成されている。また衛星バスは2枚の展開型太陽電池パドルを装備している。この太陽電池パドルは合計415Wの電力を生み出すことができ、宇宙機全体で必要とされる290Wの電力を供給する。さらに衛星バスには機体に固定された直径0. 7mのハイゲインアンテナに接続されたKaバンド送信機が装備されている。送信機は2Wの電力で動作し、100Mb/sのデータ転送レートで地上にデータを送信することが可能である。このデータ転送レートの値は、宇宙機が近地点に位置する4時間の間に科学データを地上に送信するのに十分な値である。また宇宙機には太陽輻射圧によって角運動量が蓄積するため、それを排除するためにヒドラジンスラスターという装置も備えられている。

〈軌道〉

TESSの軌道は、近地点と遠地点がそれぞれ地球半径の17倍および59倍の位置にある楕円形をしている。この軌道は周期が13.7日であり、これまでのミッションでは使用されたことのない P/2として知られる月と2:1の軌道共鳴にある安定な軌道である。観測に適するように設定されたこの楕円軌道は様々な利点がある。まず黄道面から傾いているため地球や月によって長時間視界が遮られることがない。またこの軌道における月の重力による外乱を平均すると、宇宙機の遠地点が90°付近に留まるようになっているため操作も容易である。さらに軌道は常に地球の放射帯(ヴァン・アレン帯)の外側にあり、ミッション全体での電離放射量が10Gy以下の比較的低放射線量環境である。この環境は温度変化も非常に小さく(軌道のうち90%で温度変化<0.1℃/hr、全体でも<2℃/hrである)、CCD検出器をほぼ-75℃という適温で動作させることが可能である。軌道周期と軌道長半径は比較的一定であり、離心率と傾きの交換も周期8~12年と長期的である(これはKozai-Lidovメカニズムによる)。太陽からの外乱による周期6か月の短期的周期振動も存在するが、軌道は数十年やそれ以上のタイムスケールで安定的であり、軌道を維持するための推進力も必要としない。

さらにこの軌道への到達までには、効率的に月の重力を利用して推進力を増加させる機構を使うことができる。またこの機構を使用するために宇宙機が辿る経路は打ち上げ日時と機体に依存することになる。計画では、TESSはケープカナベラル宇宙軍施設 (Cape Canaveral/フロリダ州)から上空600kmの赤道に対して28. 5°傾いた中継軌道へと打ち上げられる。この軌道で固体推進剤ロケットモータを切り離し、さらにTESSに搭載されたスラスターを使用して回転力を小さくした後に太陽光電池パドルを展開する。その後、宇宙機のヒドラジン推進系による2回の燃料噴射により遠地点を第一段階で250,000km、第二段階で400,000kmまで上昇させる。2回の噴射はそれぞれ第一段階と第二段階の軌道の近地点で行われる。そして3回目の近地点における軌道調整の後、月フライバイによって黄道に対する傾きを40°まで上昇させる。その後、最終調整によって目標となる遠地点と公転周期13.7日を達成する計画である。最後の軌道には打ち上げの約60日後に到達し、その後すぐに観測が開始される。

〈周期感度〉

理想的には数時間程度の周期から1年やそれ以上の比較的長い周期までの広範囲で惑星を検出したい。しかし最大周期をいくつに設定するかによってミッションの持続期間が決定し、最終的にコストに影響を及ぼすため、最適な値を設定する必要がある。さらにトランジット法による観測は本質的に短い周期に大きく偏っている。実際、トランジットによる検出効率と惑星出現の周期依存性を考慮したKeplerの検出周期の分布は最大10日である。このことから10日程度の短い最大周期でも多くの系外惑星を発見することが可能である。

10日ほどの長さの最大周期を設定すれば、太陽のような恒星を周回するハビタブル惑星を除外することにはなってしまう。しかし全天を分割した観測範囲一つについて少なくとも40日以上の最大周期で観測すれば、M型矮星のハビタブルゾーンに位置する惑星を検出することは可能である。さらに分割した観測範囲のうちより広範囲に探索するセクターがあれば、後のJWSTの広範囲に連続した視野と一致させるのに都合が良い。またJWSTのそのような視野の範囲は黄道の極に集中している。以上のことから、最大周期は概ね10日程度とし、黄道の極付近においては可能な限り広く最大周期40日の範囲を取ることになった。

〈カメラとスキャン計画〉

TESSは同じカメラを4つ搭載しており、2年間の主要ミッション期間にそれらを連携させて全天観測を行う。1つのカメラは 24°×24° の広視野をもつ f/1.4 のレンズを装備している。レンズの口径は直径10cmであり、これは惑星に対する検出能をシミュレーションして決定された効果的な値である。4つのカメラの視野は1×4の配列として動作し、24°×96°の連結した視野を提供する。星の検出には高いケイデンスが必要なため、ターゲット候補の惑星や恒星への露出は2分毎に行われ、30分毎に視野全体のフルフレームイメージ (FFIs)も取得される。各カメラは次の特徴を持っている:

・24°×24°の視野

・100mmの効果的なひとみ径

・7つの光学要素をもつレンズ

・温度変化の影響を受けにくい(アサーマルな)設計

・600nm-1000nmのバントパス

・4つのCCDから成るMIT-Lincoln Labの16.8メガピクセル・低ノイズ・低電力のCCID-80検出器

探索する視野については、黄道の北半球及び南半球がそれぞれ黄道の緯度6°から黄道の極までの24°×96°を1セクターとして部分的に重なった13のセクターに分割されている。各セクターは太陽と反対側を向いた4つのカメラによって、軌道の2周期分(27.4日間) にわたり連続的に観測された。軌道を2周すると、次のセクターを観測するため視野を黄道の経度で約27°東に視野を移行する。このため半球を観測するのに1年、全天観測には2年を要する。このスキャンによって約30,000平方度が少なくとも27日間、黄道の極の近くでは約2800平方度が80日以上観測されることになる。さらに黄道の極の周囲では約900平方度が300日以上観測される。

参考文献

Ricker, G. R., et al.,”The Transiting Exoplanet Survey Satellite”/1406.0151.pdf (arxiv.org)

TESS – Transiting Exoplanet Survey Satellite (mit.edu)

TESS Science Support Center (nasa.gov)

The TESS Science Writer’s Guide (nasa.gov)