LHS 1140b は、くじら座に位置し、太陽系から約40.7光年離れたところにある M 型矮星(質量が太陽の 14.6% ほど)の周りを回る super-Earth です。中心星周りのハビタブルゾーンとよばれる領域に位置しており、液体の水の存在、ひいては地球外生命の存在まで期待される地球型惑星のひとつです。
この惑星は MEarth (注1)とよばれる天文台で、太陽よりも小さな恒星の周りで惑星を探すプロジェクトにより、トランジット法を用いて発見されました。その後 HARPS (注2)とよばれる観測装置を用いて、視線速度法による観測も行われました。2017年4月20日号のNature誌に掲載されました。 トランジット法では惑星の半径が、視線速度法では惑星の質量が求まります。これら2つの観測結果を合わせることで、惑星の密度を推定することが可能となります。(詳しくは「系外惑星の探し方」をご参照ください)
これらの観測により、LHS 1140b は質量が地球の 6.65 倍、半径が地球の 1.43 倍であると求まりました。さらに、そこから推定された密度は 12.5 g/cm3 とかなり大きく、鉄や岩石などを主成分とした惑星であること、および軽い大気成分をあまりまとっていないこと、がわかりました。また、公転周期(つまり1年間の長さ)は 24.7 日ほどで、離心率(楕円の程度)は 0.29 以下であることもわかりました。
これまでにも太陽系の近く(数十光年以内)の M 型矮星周りで、ハビタブルゾーンに位置する地球サイズの惑星はいくつか発見されています。しかし、太陽系に最も近い M 型矮星の周りを回る Proxima Centauri b は、視線速度法による観測しかないため質量は下限値しか求まっておらず、また密度もわかっていません。一方で、大きな話題を呼んだ TRAPPIST-1 系の惑星については、トランジット法による観測しかないため、質量や密度の推定にはまだ大きな不確定性が残っています。今回の LHS 1140b は、初めて岩石惑星であることが「確定」された太陽系近傍のハビタブルプラネットだと言えるでしょう。
(image credit: Fuka Takagi, Yosuke A. Yamashiki, Natsuki Hosono)
(image credit: Miu Shimizu, Habitable Research Group, SGH Moriyama High School)
ところで、LHS 1140b は現在の中心星周りのハビタブルゾーンに位置してはいますが、実は過去の若い中心星(活動が激しい)のもとでは入射してくるエネルギー量が大きすぎて、いわゆる「暴走温室状態」にあったと予想されます。そうすると表面の水は全て蒸発し、光解離を経て宇宙空間に散逸してしまうため、表面に液体の水を残すことは困難となります。
ただし super-Earth の場合は、「マグマオーシャン」とよばれる表面がドロドロに溶けていた時代がかなり長く続いた可能性が指摘されており、もしこれが正しいならばマグマオーシャン中に長期間水を溶かし込んでおくことができたかもしれません。そうすれば、中心星の放射エネルギーが小さくなった頃にマグマオーシャンから水を取り出してあげることで、現在も適度な量の水を保持する環境が実現されている可能性があります。いずれにせよ、今後の詳細な観測によって水の存在の有無を調べることが重要です。
ちなみに、これまでに M 型矮星周りで見つかっている地球型惑星は、ほとんどが複数惑星系を成しています。LHS 1140 周りにも、今回発見された super-Earth 以外に、まだ見つけられていない他の小さな地球型惑星が複数存在している可能性は高いと考えられます。こちらも今後の追観測に期待しましょう。
LHS 1140 b に関する詳しい情報は以下のデータベースページをご覧ください。
http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/LHS_1140_b.html
(文責:佐々木貴教)
参考文献
Jason A. Dittmann et al., A temperate rocky super-Earth transiting a nearby cool star, Nature 544, 333-336.
http://www.nature.com/nature/journal/v544/n7650/full/nature22055.html
注1: MEarth は、アメリカ国立科学財団が設立した太陽系外惑星を探査するための天文台です。観測システムは口径 40cm の望遠鏡 8 台から構成され、自動で約 2000 個の恒星の変光を監視しています。(参考:Wikipedia)
注2:HARPS は、ヨーロッパ南天天文台 (ESO) が2003年から運用している太陽系外惑星の観測装置です。チリのラ・シヤ天文台にある 3.6m 望遠鏡に設置された分光器を用いて観測が行われています。(参考:Wikipedia)
ExoKyoto Stellar Screen で表現したLHS1140恒星系の位置
ExoKyoto Stellar Screen で表現したLHS1140恒星系の位置
LHS1140bは上記のように、岩石惑星で、大気をそれほどまとわず、ハビタブル・ゾーンの少し外側にある。ExoKyotoを用いて温度を推定すると、推定温度 230K となり、もし暴走温室状態を耐えてある程度の水が惑星表面にのこっていたとすると、海洋惑星ではなく雪玉惑星となっている可能性もあるだろう(山敷)
(image credit: Ryusuke Kuroki, Yosuke A. Yamashiki, Natsuki Hosono)
また、主星との距離が近いため、潮汐ロックされている可能性もある。その場合、昼半球は干上がり、夜半球は水(氷)が残っている可能性がある。
(image credit: Fuka Takagi, Yosuke A. Yamashiki, Natsuki Hosono)
LHS 1140星のハビタブル・ゾーンは以下の位置にあります。
Inner Boundary (the orbital distance at Venus’s Equivalent Radiation ) : 0.038 AU ( 5,619,613.2 km)
内側境界(金星相当放射を受ける軌道半径): 0.038天文単位( 5,619,613.2 km)
Earth Boundary (the orbital distance at Earth’s Equivalent Radiation) : 0.052AU ( 7,767,774.0 km)
地球境界(地球相当放射を受ける軌道半径): 0.052天文単位(7,767,774.0 km)
Outer Boundary (the orbital distance at Mars’s Equivalent Radiation) :0.079 AU ( 11,836,368.5 km)
外側境界(火星相当放射を受ける軌道半径): 0.079天文単位(11,836,368.5 km)
Snow Line (the orbital distance at Snow Line Equivalent Radiation) : 0.116 AU ( 17,417,734.8 km)
スノーライン(スノーライン(雪線)相当放射を受ける軌道半径): 0.116 天文単位(17,417,734.8 km)
Radiation at Planetary Boundary of LHS 1140 b : 481.60W/m2
LHS 1140 b 惑星境界での中心星からの放射 481.60 W/m2
(Habitable zone calculated based on SEAU(Solar Equivalent Astronomical Unit) around the LHS 1140 b)
(太陽系相当天文単位(SEAU) を用いたLHS 1140 のハビタブル・ゾーン)
Original Kopparapu Recent Venus for LHS 1140 distance : 0.042 AU
Kopparapu et al. 2013 (Originalな係数セット) による、現在の金星位置条件に対応する半径 : 0.042天文単位
Original Kopparapu Runaway Greenhouse for Star LHS 1140 distance : 0.056 AU
Kopparapu (Original) による、暴走温室限界半径 : 0.056 天文単位
Original Kopparapu Moist Greenhouse for Star LHS 1140 distance : 0.056AU
Kopparapu (Original) による、湿潤温室限界半径 : 0.056 天文単位
Original Kopparapu Outer Boundary for Maximum Greenhouse for Star LHS 1140 distance : 0.109AU
Kopparapu (Original) による、(火星相当惑星の)最大温室効果半径 : 0.109 天文単位
Original Kopparapu Outer Boundary for Early Mars for Star LHS 1140 distance : 0.113 AU
Kopparapu (Original) による、太古の火星条件に相当する半径 : 0.113 天文単位
(Habitable zone calculated based on Kopparapu et al.(Original) around the star LHS 1140)
Kopparapu et al.2013 (ORIGINAL Coef) を用いたLHS 1140 のハビタブル・ゾーン
ExoKyoto Individual Screen で表示したLHS 1140 bとその想像図(雪玉惑星)
ジャーナル記事
1.) A temperate rocky super-Earth transiting a nearby cool star
2.) A Search for Exomoons and TTVs from LHS 1140b, a nearby super-Earth orbiting in the habitable-zone of an M dwarf
WEB記事
1.) Newly Discovered Exoplanet May be Best Candidate in Search for Signs of Life
2.) Welcome to LHS 1140b: A Super-Earth in the Habitable Zone
3.) Exoplanet LHS 1140b may be most habitable yet found