ハビタブルゾーンとハビタブルプラネット
系外惑星研究における最終目標の1つは、おそらく「生命を宿す惑星を見つける」ことでしょう。
我々人類は、惑星についてはたくさんの系外惑星を発見していますが、残念ながら生命については未だ「地球型生命」以外の生命に出会ったことがありません。もちろん、地球型生命とは異なるタイプの生命がこの宇宙のどこかに存在している可能性は十分にありますが、現状でそうした別のタイプの生命について考えるのは、やや先走り過ぎというものでしょう。
そこで、まずは地球型生命にとっての「生命存在条件」について考えてみることにします。最近のいくつかの研究結果によると、地球の特徴は以下の4点に集約されます。
1. 地表に水があること
2. 大陸があること
3. プレートテクトニクスがあること
4. 生命がいること
このうち、「1. 地表に水があること」が、地球型生命の発生・進化にとっての最も重要な必要条件であると一般に考えられています。(注)
(credit: NASA)
もし惑星が H2O を持っていた場合、地表に水が存在できる軌道範囲(中心星からの距離)のことを「ハビタブルゾーン」とよびます。そして、このハビタブルゾーン内に存在している惑星のことを「ハビタブルプラネット」とよびます。
ここで気をつけなければいけないのは、ハビタブルプラネットというのは、「生命が存在している惑星」という意味ではなく、「生命に必要な水が地表に存在できる惑星」という意味だということです。
一般に、ハビタブルゾーンの内側境界は熱すぎて水が蒸発する位置、外側境界は冷たすぎて水が凍る位置、と説明されることが多いのですが、本当はもう少し複雑なことを考えて境界の位置を決めています。
まず、ハビタブルゾーンの内側境界ですが、これは「暴走温室条件」というもので決められています。
現在の地球では、太陽から入ってくるエネルギーと地球から出て行くエネルギーはつり合っています。逆に言うと、これがつり合うような温度として、地球の温度が決まっていることになります。つまり、太陽から入ってくるエネルギーが何らかの原因で増えた場合には、地球の平均温度を上げることで地球から出て行くエネルギーを増やして、互いのエネルギーをつり合わせることになるわけです。
ところが、ここでは詳しい説明は省きますが、地表に水がある惑星では、惑星から出すことのできるエネルギーに上限が存在することが知られています。そのため、この上限を超えるエネルギーが入ってきた場合には、いくら惑星の温度を上げても、互いのエネルギーをつり合わせることはできません。つまり、常に余分なエネルギーが惑星に「溜まっていく」ことになります。例えるなら、毎月最大でも10万円しか支払いができないところに、毎月11万円の請求がきて、月に1万円ずつ借金が増えていくようなものです。
そうなると、惑星の温度は無限に上がり続けることになり、この温度上昇は、地表から水が無くなるまで続きます。この状態を「暴走温室状態」とよびます。
中心星から入ってくるエネルギーは、当然星に近いところほど大きくなりますので、暴走温室状態に入る直前の位置として、ハビタブルゾーンの内側境界が決まることになります。
次に、ハビタブルゾーンの外側境界ですが、こちらは「全球凍結条件」というもので決められています。
実は温室効果ガスが全く無い場合、地球の軌道では惑星の温度が低すぎて、表面の水は全て凍りついてしまいます。そのため、ハビタブルゾーンの外側境界を決めるときには、温室効果ガスの影響を考える必要があります。
現在の地球では、二酸化炭素が最も重要な温室効果ガスとなっています。そこで、地球と同じような大気を持った惑星を想定した場合、二酸化炭素が凍りついてしまって十分に温室効果が効かなくなる位置を、ハビタブルゾーンの外側境界として定義することになります。この境界を超えると、温室効果が弱まることで惑星の温度が一気に下がり、惑星は「全球凍結状態」に入ることになります。
ここで注意しなければいけないのは、ハビタブルゾーンの外側境界を決めるときには、一般に「地球と同じ大気を持つ」ことが暗に仮定されている、ということです。当然、二酸化炭素の量が地球とは異なる場合、あるいは別の温室効果ガスを持っている場合には、その境界は異なる位置になります。
すなわち、ハビタブルゾーンの外側境界の位置は、惑星の大気の量や成分に依存して変わることになるのです。
(注)木星の衛星「エウロパ」のように、地表ではなく、表面を覆う氷の下にある海(内部海)において、生命の存在が期待されている天体もあります。また、土星の衛星「タイタン」のように、水ではなく液体のメタンが地表を循環しているような天体でも、生命の存在の可能性は議論されています。しかし、少なくとも「地球型生命」について考えるのであれば、やはり地表に水があることが重要な必要条件となると考えられます。
(文責:佐々木貴教)